Hysteric Papillion 第15話
そして、じーっとこちらを見つめてきて、『んっ、んっ』とポテトを唇ではさんだまま、私の口に近づけてくる。
どうしろと…。
…いや、まさか…。
そう思ったけど、とりあえず、その片方を口にくわえて、食べ始める。
自分の意図を掴んでくれたのをわかったのか、薫さんの唇が近づいてくる。
ちょっと塩味のキス。
じゃがいものせいで、口の中が少しザラザラするのを、薫さんの舌が上手に拭っていく。
唾液と塩味が中和されて、そして唾液の甘さに押されて、結局薫さんに酔ってしまって…。
この後の事に期待…というか、どうしたらいいのかわからないというか…。
あれ…。
どしたんだろ…。
「ちょっ…ちょっと、宥稀ちゃん?!顔真っ赤よ!?」
「え!?」
と、両頬に手のひらを当ててみると、ジワーッと熱さが伝わってくる。
「もしかして酔っちゃった?」
「え…いえ、そんなことはぁ…」
…と言いつつ、薫さんの腕から逃げたくても、足が絡んでくたんとフローリングに溶ける。
ど、どしてかな…。
あの日はあれだけ飲んでも全然平気だったのに…。
「もう寝る?12時すぎてるし…」
食べ終わったテーブルの上を片付け、濡れたふきんで拭きながら、薫さんがおでこに手を当てる。
「え、いや、まだ…」
「そう。じゃあ、テレビでも見ていなさいな」
ちょっと命令形の後、薫さんがそばのテレビにリモコンを向ける。
ピンッという電子音と共に、よくわからない番組がかけられる。
そういや、こんな時間にテレビなんて見るの、初めてだ。
ちょっとずつ酔ってるのが醒めてきて、リモコンで番組を変えて、歌番組なんかを見てみる。
そう言っているそばから、ザバーッと水の流れ落ちる音がした。
あ、そうか、薫さんお風呂入ったんだ。
なんか違うよなぁ…。
こう、もっと私は一緒にいられるんだと思ってたのに…ポテトの件は別として。
すごくやさしいよ、確かに。
でも…これはなぁ…。
そう思っていると、ガラガラッとバスルームの閉まる音がした。
…ちょっと考えたこと。
それは、少しくらいおねだりしてもいいかなぁ…っていうことだった。
もっと一緒にいたいって…。
作品名:Hysteric Papillion 第15話 作家名:奥谷紗耶