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マオミの部屋

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 時々自分は日時計になんだと思うときがある。マオミの部屋は陽がとてもよく入る。窓際で膝を抱えて座っていると、自分の影が室内に伸びていることに気付く。ずっとそうしていると徐々に影が移動していて、日が高くなっているのがわかる。日時計だ。マオミが仕事に出かけてから、日が沈むまでじっとそうしていると自分がどれほど暇なのかよく分かる。こうしている一分一分にもマオミは働き、金を稼いでいる。その金で僕は生きている。いっそのこと、日時計のほうがまだ人の役に立っている。日時計になりたいです。と言ってみたが、それで何かが変わるわけではない。
 マオミは自分がいないときに僕がどこかに出歩くことを嫌っている。一度、事前に連絡せず、ふらりとパチンコに出かけたことがある。偶然、その日マオミは早く帰ってきた。そして僕はいなかった。日が暮れてから帰るとマオミは僕をひどく叱咤した。どうしていないのか。と罵った。誰と会っていたのだ、と罵声を浴びせた。それから僕はマオミがいないときに家を出ないようにしている。マオミのためであるという意味もあるし、僕自身外に出る必要も無かった。食事はマオミが作ってくれるし、ゲームや漫画といったものもマオミが買ってきてくれる。ただ、煙草だけは強くお願いしないと買ってきてくれない。それでも僕がニコチン切れでうんうん苦しんでいると、嫌そうな顔をして煙草を買ってきてくれる。こんな具合だから、僕は外に出なくても何の問題も無い。マオミのためであると同時に、必要性が無いから、求めることも無い。
 僕は日時計なのかもしれない。影がぼんやり伸びてそう思う。マオミという太陽がなければ、自分の存在すら保てない男なのかもしれない。
 カチカチ。カチカチカチカチカチ。気付くとまたトイレの電気を点けては消していた。僕はマオミのことが好きだ。カチカチ。僕はマオミのことが好きだ。もう一度言い直す。とても好きだ。カチカチ。カチカチカチカチ。あるとき、ふと気がついた。僕とマオミは正反対だった。僕は男だし、マオミは女だ。僕は右利きだし、マオミは左利きだ。そんな表面的なことだけじゃなくて、もっと中身まで、正反対に出来ている。カチカチ。僕はマオミのことが好きだ。マオミも僕のことが好きだ。カチカチ。マオミは僕が彼女の目を離れるのをとても嫌う。カチカチカチ。僕はもっと外に出たいのかもしれない。僕は彼女が好きだから、セックスについてあまり考えたくない。カチカチ。彼女は僕を好きじゃない。セックスがしたいだけだ。そうだと、反対にある。カチ。

 指先一つで電気が点くのはとても不思議なことだ。全然理解出来ない。まだ一流の剣士を拳銃で撃つことや、国境を隔てた相手にメールを送ることのほうが理解できる。だから、僕には上手く理解できない。指先一つで電気が点く意味なんてわからない。だから、こうして、マオミの胸に立てた包丁が、指先一つで彼女の心臓に届くのだってちゃんと僕は理解している。

「刺したい。そういう願望が僕にはあります」

 と言ってみて思った。血を吐き出したマオミ。カチカチの音。指先の動き。高く昇った太陽が、雲の隙間から顔を出した。室内に日が差し込んだ。切り込むように鋭く、室内に入り込んで僕の影を作った。マオミを覆った。彼女の顔が見えなくなった。僕はやはりそうだ、と思った。僕のも欠陥の一つはある。と、そう思うと、日が翳り、マオミと目が合った。マオミは僕の左足を掴んでいた。
作品名:マオミの部屋 作家名:九太郎