絡み合う蛇
タカシは動けなかった。あまりの激しさに体力を使い果たしてしまったのではないほどであった。しかし、不思議なほど心地よかった。何かエネルギーをもらったような気がした。そうだ、アキコとのセックスで欠けているものが何であるか分かった。彼女は、まだ二十の娘で、乳房がつんと誇り高く上に向いている清楚な美人だが、生命力が弱い。そのうえセックスも弱い。彼女とのセックスは肉体の衰退が目立つタカシにはちょうど良かったが、生の充実感が欠落した、老いていく人間に相応しいセックスだった。
「今度、来るときは、精力剤を持ってきてくれ。次は体が持たない」とタカシは言った。
「私がもう一度来ると思うなんて、自惚れもいいところよ」とケイコは笑った。
夕食のとき、アキコは聞いた。
「ケイコさんは帰ったの?」
「ずいぶん前に」とタカシは答えた。
アキコもタカシによって少女から女に変わった一人だ。だから今やタカシなしで生きていけない体になっていた。美人ではあるが、際立って美しいわけではない。そしてそれ以外何一つ取り柄がないことも彼女自身、痛いほど知っていた。彼にすがっていけば衣食住に不自由することはない。逆に彼の保護を失えば、行き先が無くして、頼ることもなく都会の片隅で息をひそめて暮らさないといけない。妻であり、恋人であり、家政婦であり、そしてヌードモデルである存在。だが、いつか飽きられすてられる日が来るとも思っている。それがいつか。二年後か五年後が。前の女と入れ替わりにアキコが入ったとき、前の女が呟いた。
「いつかあなたも捨てられるのよ」
真に受けなかった。けれど、ケイコとタカシの激しいセックスを見たとき、自分もそうなる運命であることを予感した。
翌朝、アキコはタカシの元を去ることを告げた。
タカシは理由を聞いた。
「私はケイコさんのようになれない。蛇みたいに絡みあうことなんか私には無理。やはり、ここに来たのが間違った。はじめから、あなたの忠告に従えばよかった。あなたは言った。ここは蛇の巣窟だ。男と女が激しく愛し合うところだから、お前には無理だって……」と言うと、アキコは泣き出した。いつもなら、優しく慰めるが、今回は何もしなかった。ただ、アキコが来て、もう二年が経ったことに妙な苛立ちを覚えた。
「君も俺もずいぶんと回り道をした。本来なら、交わることはなかった。こうなる運命だった」と言った。