この時代におけるわしは異常じゃ
今や誰もが言っているので試してみることに。
まったく、この時代というのはよくわからない。
「心メンテナンスへようこそ」
男は医者のような格好で手元には紙を持っている。
それで診断するんだろうか。
見た目には普通の医者の問診だけど。
「心にメンテナンスなんて必要なんですか?」
「当たり前じゃないですか。
人間の体は毎日毎分変化しているんです。
髪が伸びるように、心もさまざまなものを見て心も変容するんです」
「それが人なんじゃないんですか」
「同じこと、頭のおかしい殺人鬼の前でも言えますか?」
「……」
「人の心をメンテナンスして、
正しく正常で健康的な心にするのがこのクリニックです。
文句がなければ、始めますよ」
「はい、お願いします」
わしは寝かされると、そのまま変な機械の中に通された。
いくつものレーザーが心臓めがけて照射される。
痛みはないけれど、なんだか心を覗かれているみたいでいやな気分。
「先生、どうでした?」
「簡単な検査しかしてませんが、危険ですね」
「危険!?」
「心の奥底に、世界を征服したい願望がありました。
それに、そのためにだったらどんなことをする覚悟も」
「それ危険なんですか」
「危険に決まってるでしょ!
今やタイムマシンも作られているこのご時世!
あんたみたいな思想犯罪者が未来にやってきたらどうなるか!」
「はあ……」
「精密検査しますから、こちらへ」
再び通された場所ではもっとゴツい機械が並んでいる。
ベッドに固定されると、機械の中に放り込まれた。
「やはり、危険ですね。心が病気になっていますよ。
人を殺すことへの嫌悪が低く、敵対意識も強い。
しかも仲間への信頼は人一倍強いじゃないですか」
「まずいんですか?」
「こういう人が組織的な暴力団を作るんですよ。
今すぐ治療しますからこちらへ」
部屋に入ると今度は機械のたぐいはなく、
ただの注射器一本が置かれているだけだった。
「これで治るんですか?」
「ええ、これで完璧に治ります」
「どんなふうに?」
「友達を大切にし、暴力を嫌い、誰にでも優しく
思いやりがあって、いつも笑顔で、精神が安定して
争いを嫌い、友達を大切にする良い人になります」
「友達を大切にするって2回言いませんでした?」
ぶすっ。
医者は無言で薬を流し込んだ。
薬の浸透とともに、頭に渦巻いていた野心が消えていく。
「どうですか?」
「生まれ変わったような気分です。
どうしてわしは今まであんなことを考えていたんでしょう。
もっとみんな仲良くなればいいのに」
「これであなたの心も、
虫も殺さない正常な状態へと戻りました」
「ありがとうございます、先生」
患者が帰った後、医者はカルテを見て驚いた。
「おい、まさかあの患者って……」
時は戦国時代まで戻る。
タイムマシンで過去に戻った患者へ家臣がやってきた。
「殿! 次はどこを攻め落としましょう!?」
「さあ殿! われらに進撃のご命令を!」
「殿、次なる命令を我らに!」
織田信長は宣言した。
「みんな友達。争いなんてやらないよ♪」
翌日、ふぬけになった殿を明智がぶっ殺した。
作品名:この時代におけるわしは異常じゃ 作家名:かなりえずき