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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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この小説が読まれないのは世界が悪い

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「ああーーあ、読まれないなぁ」

ランキングに俺の作品が出ることはない。
ランキング上位の作品を読んでみても、
俺の小説のほうがはるかに面白いのになぜだ。

どうしてこの世界は才能のないバカが評価されて、
俺のように才能あふれる天才は評価されないんだ!

「悪いのはどう考えてもこの世界だ!
 別の世界にさえ行けば才能が評価されるのに!」

まるで俺の叫びを聞いたようにチラシが飛んできた。


『あなたも、パラレルワールドへ渡りませんか?』


チラシの住所に行くと、期待できそうもないボロ店だった。

「あの、ここが本当にパラレルワールドに行けるんです?」

「はい、行けますよ。
 といっても、行けるのはあなた自身の並行世界だけですが」

「あの、ちなみにですけど、
 パラレルワールドに行っている間この世界はどうなるんですか?
 急にひとが消えたらやっぱり問題に……」

「でしたら、別自分を購入します?」

店の奥には、人間の素体がディスプレイされていた。
ラベルには素体のもつ才能が書かれている。
才能が高い素体ほど、値段も高い。

「これを?」

「はい、お好きなものを購入してください。
 あなたが消えても、この素体があなたに完璧になりきって生活します」

「じゃあ……一番才能のない安いヤツで」

パラレルワールド行くのにも金かかるのに、
ここで金かけすぎても意味ない気がする。

「では、次に移動先のパラレルワールドを選びましょう」



・8男6女の大家族パラレルワールド
・アイドルとして活動中のパラレルワールド
・女となって生まれたパラレルワールド


「これ……これ全部、別世界俺なんですか!?」

「はい、別のあなたが作っている世界ですよ。値段は同じです」


・芸能人として大人気のパラレルワールド


「これいいじゃないですか! これにします!」
「かしこまりました」

芸能人で本を出せば、認知度も高いに決まってる。
そのうち芥川賞もサクっととっちゃったりして……。


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「サインください!」
「あれやってください!」
「芸能人の人ですよね! 握手してください!」

「あ、ああ……」

この世界の俺は芸能人として活躍している。
といっても、たまたま投稿した動画がヒットし
バラエティ番組に出るようになっただけだった。

でも、この発信力を使わない手はない。

「実は、本を出したんです!」
「みなさん僕の本読んでくださいね!」
「新刊出しました! 買ってください!」

テレビのディレクターからストップがかかった。

「あの、宣伝辞めてもらえますか?」

「なんでですか!?
 これを読んでもらえれば、もっと楽しく……」

「テレビを見る人はテレビが観たいんですよ。
 そこで本の宣伝されてもウザいだけで、印象悪いです。
 それに……今、本を読む人なんて2%しかいないんですよ」

「だから! その2%に伝えるためのテレビでしょ!」

こんなのでビビってたまるか。

「みなさん! 僕の新刊読んでくださーーい!!」

それからすぐにテレビからは締め出され芸能人の肩書も失った。
なにを言っても宣伝しかしないので使いづらいんだろう。

「くそっ……これじゃあ俺の才能を知られないまま腐ってしまう!」

この世界でも同じ住所を探す。
まさかとは思ったけど存在した。


『あなたも、パラレルワールドへ渡りませんか?』



パラレル店に入っても、内容は完全に同じだった。

「また別の世界に行くんですか?」

「ああ、この世界じゃ俺の才能が腐ってしまうからな」


・バンドとして活動するパラレルワールド
・修行僧として生活するパラレルワールド
・浮気しまくり修羅場になりまくりのワールド

「どれもいいのないなぁ……ちゃんと頑張れよ、俺」


・読書率99.999999%のパラレルワールド


「キタァーーーーッ!!! ここにします!」

迷わず次のパラレルワールドへ行く。


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本、本、本、本。

道には本が積み上げられ、書店ばかり並んでいる。
この世界の娯楽は本しかない。

「すげぇぇぇ! ここなら間違いなく俺の才能は開花する!!」

なにせみんな本を読んでいるもの!
さっそく俺はいくつも新作を書きまくった。



「……あれ?」

新刊出したはずなのに、なんの波も起きやしない。
一応、もう一度新刊を出してみる。

「……あれれ?」

さざ波も起きやしない!
書店にちゃんと出ているんだろうな!?

慌てて書店に入ると広さに目を疑った。

どの書店も体育館ばりの広さで、
壁も床もいたるところに本が並べられている。

「俺の本……いったいどこに陳列されてるんだ!?」

頭文字で検索しても、本は大量にある。
名前で検索しても同名の本は100冊以上。

読書率が99%だからっていくらなんでも……。


「これじゃいくら書いても、誰にも見てもらえない!
 誰にも読まれないまま俺の作品が埋没してしまう!!」

そうなれば俺の才能は腐ってしまって終わりじゃないか!

もう覚えたあの住所へと向かう。
この世界でもやっぱりあの店はあった。


『あなたも、パラレルワールドへ渡りませんか?』


店に入るなり、次の移動先を調べる。

「また移動するんです? なにを焦っているんですか」

「才能のないお前にはこの危機感わからないだろうよ!」


・海の家でバイトパラレルワールド
・中小企業の社員パラレルワールド
・ギャンブラーのパラレルワールド

「ダメだダメだ! どれもクソ世界じゃないか!」


・人気小説家のパラレルワールド


「うおおおお!! 待ってましたぁ!! この世界にします!」


ついに俺の才能が正しく評価されている!!

「え、いいんですか? この世界はもともと……」
「うるせーー! さっさと転送しろやぁぁ!!」


転送。

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大人気作家、ついに新刊発表!!

移動先の世界。
テレビの会見で俺が映っていた。

『はい、嬉しいです。みなさんに楽しんでもらえるよう
 これからも執筆活動を頑張っていきたいと思います』


俺が最初に購入した、一番才能のない素体のがしゃべっていた。

『これからも自分の力を信じて頑張っていきます』


この世界は、俺が元々いた世界。