この小説が読まれないのは世界が悪い
ランキングに俺の作品が出ることはない。
ランキング上位の作品を読んでみても、
俺の小説のほうがはるかに面白いのになぜだ。
どうしてこの世界は才能のないバカが評価されて、
俺のように才能あふれる天才は評価されないんだ!
「悪いのはどう考えてもこの世界だ!
別の世界にさえ行けば才能が評価されるのに!」
まるで俺の叫びを聞いたようにチラシが飛んできた。
『あなたも、パラレルワールドへ渡りませんか?』
チラシの住所に行くと、期待できそうもないボロ店だった。
「あの、ここが本当にパラレルワールドに行けるんです?」
「はい、行けますよ。
といっても、行けるのはあなた自身の並行世界だけですが」
「あの、ちなみにですけど、
パラレルワールドに行っている間この世界はどうなるんですか?
急にひとが消えたらやっぱり問題に……」
「でしたら、別自分を購入します?」
店の奥には、人間の素体がディスプレイされていた。
ラベルには素体のもつ才能が書かれている。
才能が高い素体ほど、値段も高い。
「これを?」
「はい、お好きなものを購入してください。
あなたが消えても、この素体があなたに完璧になりきって生活します」
「じゃあ……一番才能のない安いヤツで」
パラレルワールド行くのにも金かかるのに、
ここで金かけすぎても意味ない気がする。
「では、次に移動先のパラレルワールドを選びましょう」
・8男6女の大家族パラレルワールド
・アイドルとして活動中のパラレルワールド
・女となって生まれたパラレルワールド
「これ……これ全部、別世界俺なんですか!?」
「はい、別のあなたが作っている世界ですよ。値段は同じです」
・芸能人として大人気のパラレルワールド
「これいいじゃないですか! これにします!」
「かしこまりました」
芸能人で本を出せば、認知度も高いに決まってる。
そのうち芥川賞もサクっととっちゃったりして……。
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「サインください!」
「あれやってください!」
「芸能人の人ですよね! 握手してください!」
「あ、ああ……」
この世界の俺は芸能人として活躍している。
といっても、たまたま投稿した動画がヒットし
バラエティ番組に出るようになっただけだった。
でも、この発信力を使わない手はない。
「実は、本を出したんです!」
「みなさん僕の本読んでくださいね!」
「新刊出しました! 買ってください!」
テレビのディレクターからストップがかかった。
「あの、宣伝辞めてもらえますか?」
「なんでですか!?
これを読んでもらえれば、もっと楽しく……」
「テレビを見る人はテレビが観たいんですよ。
そこで本の宣伝されてもウザいだけで、印象悪いです。
それに……今、本を読む人なんて2%しかいないんですよ」
「だから! その2%に伝えるためのテレビでしょ!」
こんなのでビビってたまるか。
「みなさん! 僕の新刊読んでくださーーい!!」
それからすぐにテレビからは締め出され芸能人の肩書も失った。
なにを言っても宣伝しかしないので使いづらいんだろう。
「くそっ……これじゃあ俺の才能を知られないまま腐ってしまう!」
この世界でも同じ住所を探す。
まさかとは思ったけど存在した。
『あなたも、パラレルワールドへ渡りませんか?』
パラレル店に入っても、内容は完全に同じだった。
「また別の世界に行くんですか?」
「ああ、この世界じゃ俺の才能が腐ってしまうからな」
・バンドとして活動するパラレルワールド
・修行僧として生活するパラレルワールド
・浮気しまくり修羅場になりまくりのワールド
「どれもいいのないなぁ……ちゃんと頑張れよ、俺」
・読書率99.999999%のパラレルワールド
「キタァーーーーッ!!! ここにします!」
迷わず次のパラレルワールドへ行く。
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本、本、本、本。
道には本が積み上げられ、書店ばかり並んでいる。
この世界の娯楽は本しかない。
「すげぇぇぇ! ここなら間違いなく俺の才能は開花する!!」
なにせみんな本を読んでいるもの!
さっそく俺はいくつも新作を書きまくった。
「……あれ?」
新刊出したはずなのに、なんの波も起きやしない。
一応、もう一度新刊を出してみる。
「……あれれ?」
さざ波も起きやしない!
書店にちゃんと出ているんだろうな!?
慌てて書店に入ると広さに目を疑った。
どの書店も体育館ばりの広さで、
壁も床もいたるところに本が並べられている。
「俺の本……いったいどこに陳列されてるんだ!?」
頭文字で検索しても、本は大量にある。
名前で検索しても同名の本は100冊以上。
読書率が99%だからっていくらなんでも……。
「これじゃいくら書いても、誰にも見てもらえない!
誰にも読まれないまま俺の作品が埋没してしまう!!」
そうなれば俺の才能は腐ってしまって終わりじゃないか!
もう覚えたあの住所へと向かう。
この世界でもやっぱりあの店はあった。
『あなたも、パラレルワールドへ渡りませんか?』
店に入るなり、次の移動先を調べる。
「また移動するんです? なにを焦っているんですか」
「才能のないお前にはこの危機感わからないだろうよ!」
・海の家でバイトパラレルワールド
・中小企業の社員パラレルワールド
・ギャンブラーのパラレルワールド
「ダメだダメだ! どれもクソ世界じゃないか!」
・人気小説家のパラレルワールド
「うおおおお!! 待ってましたぁ!! この世界にします!」
ついに俺の才能が正しく評価されている!!
「え、いいんですか? この世界はもともと……」
「うるせーー! さっさと転送しろやぁぁ!!」
転送。
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大人気作家、ついに新刊発表!!
移動先の世界。
テレビの会見で俺が映っていた。
『はい、嬉しいです。みなさんに楽しんでもらえるよう
これからも執筆活動を頑張っていきたいと思います』
俺が最初に購入した、一番才能のない素体のがしゃべっていた。
『これからも自分の力を信じて頑張っていきます』
この世界は、俺が元々いた世界。
作品名:この小説が読まれないのは世界が悪い 作家名:かなりえずき