月のあなた 下(4/4)
ところが自分はそんなことかけらも覚えていない。ほとんどすっぽりと言って良いほど、記憶が抜け落ちていた。そのためか何度も分析され、カウンセリングされ、昨日まで家に戻れなかった。
(それどころか…)
日向のあの腕輪を見た瞬間、とてもではないが人には言えない光景が、目の前によみがえったのだ。
それは、和家上空の、月と日との中心にいた二人の少女の記憶だった。
(わたし、やばい…?)
そう思うと胸の中心辺りに、なにか違和感が――
「っと…もう着いちゃった」
〈学園長室〉とそのドアには看板が張られていた。
作品名:月のあなた 下(4/4) 作家名:熾(おき)