月のあなた 下(3/4)
「名はなんというのかな」
「日向、です」
「ひなた――では、いつか晴れた日の午後、私は君の傍に居よう。そこに在るのは君の期待している友情ではないし、ただ一粒の麦程の共感に過ぎないが、それに勝るものが、この世にあると思うかね」
日向は俯いて、首を振った。
「いいかね、きっとだ」
身体の殆どが崩れ去っていた老人は、微笑んだ。
最後に、悠久の間に伸びた長い長いひげの一本が砂となって、彼は消えた。
「貴女の上にも、平安がありますように」
(月のあなた 下 4/4につづく)
作品名:月のあなた 下(3/4) 作家名:熾(おき)