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熾(おき)
熾(おき)
novelistID. 55931
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月のあなた 下(3/4)

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「名はなんというのかな」

「日向、です」
「ひなた――では、いつか晴れた日の午後、私は君の傍に居よう。そこに在るのは君の期待している友情ではないし、ただ一粒の麦程の共感に過ぎないが、それに勝るものが、この世にあると思うかね」

 日向は俯いて、首を振った。

「いいかね、きっとだ」

 身体の殆どが崩れ去っていた老人は、微笑んだ。
 最後に、悠久の間に伸びた長い長いひげの一本が砂となって、彼は消えた。

「貴女の上にも、平安がありますように」



(月のあなた 下 4/4につづく)