7月の出来事
(1)
夜勤明け。
いくら早く終わったとしても、やはり、人は、夜、眠るのが身体に好いんだな。
このところ、夜勤から少しだけ解放されていたので、午前3時には家に帰ったのだけれど、なるべく物音を発てない様に、シャワーを浴びてすぐに眠った・・
「・・もしもし、朝ですよ~・・ 起きてくださ~い・・」
「・・・」
「・・朝ですよ~・・」
「・・あぁ おはよう・・(6時・・前か・・) 早いね、もう起きたの?」
「うん、一緒に水遣りする約束だから・・」
「あ、そうだったね。起こしてくれてありがとうね・・」
俺が目覚めたのを見届けて、愛は、部屋から出て、多恵に、俺の起床を伝える。
「・・おはよう。」
「おはよう・・潤ちゃん、昨日、帰ったの3時過ぎてたでしょ? 大丈夫・・?」
「ああ、俺は、少し眠るだけで24時間は起きて居れるから、問題ない。」
「もう少し待ちなさいって言ったんだけどね、愛が、何度も『もう好いかなぁ・・』って聞くから・・」
「構わないさ。昨日からの約束だから・・」
などと話しているうちに、愛は、もう菜園に水をやっている。
俺も加わって、二人で水を遣りながら、まず天気の話から始める。
そして、何時も同じではないが、最近の若者の(^^)情報など仕入れる。いやはや・・・
「おっ、トマトが三つ赤くなってる。ちょうど一人1個ずつ食べれるな。」
「・・あのね、おばあちゃんが、昨日、『トマトが、美味しそうじゃね。』って言ってたよ。」
「そう? じゃあ、ひとつ採って、持って行ってあげると好いよ。」
愛は、頷いて、3個のうちのどれにしようかなぁ・・と見定める様に・・。そして、上手にもぎ取って、大家さんちへ・・
帰って来た愛に、
「今日は、このトマトとレタスで野菜サンドを作ろう。ママにそう言ってくれるかな?」
と言うと、彼女、
「は~い。」
と、残りの二つを持って、家の中に消えた。
朝食の後、ソファーでウトウトしていると、携帯が鳴る。
同じ会社の後輩から、
「ちょっとだけでいいから、何処かで会いたいのですが・・」
ちょっとだけ で、本当にちょっとで終わった事は記憶にないが、
「ああ、好いよ。」
と。
丁度、買い物に行く予定だったから、後輩も知っているスーパーで待ち合わせ。多恵と愛が、買い物をする間、俺は、後輩と会う事にした。
彼は、かなり早めに来ていた様だった。
「どうした? 何時も時間ギリギリのお前が、もう来ているなんて・・」
と、俺は、笑いながら・・
「はぁ・・」
殆ど毎日顔を合わせている間柄だから、表情を見れば、その相談内容の程度も想像は出来る。
「なんだよ、お前、小さくなってるぞ。」
「はぁ・・すみません・・」
話は、どうやら、小さな事ではなさそうだ。
だけど・・乗り掛かってしまった もんなぁ・・
(2)
「・・実は、好きな奴が出来て・・」
「あ、そう・・」
「それで、一緒になりたいんですが・・ちょっと問題が有って・・」
「うん・・」
「彼女は、フィリピン人で、行き付けの飲み屋で働いとるんですが・・話すうちに何かええ(好い)なと思い初めて・・だんだんプライベートな付き合いになって・・ 彼女には、子供(男の子・4歳)が一人居るんですが・・その子も一緒に3人で遊びに行ったりして、何かええ感じになって・・ 『一緒に暮らそうか・・』言うたら、彼女、『一緒に暮らしたいけど、まだ前の旦那と離婚していないから・・』と・・」
「うん・・」
「それで、別居し始めて、もう随分になるのに、離婚をせん相手とはどんな奴か聞いたんです。そしたら、何か・・ややこしそうな奴で・・『一緒に住もうが住むまいが、絶対に離婚用紙にハンコは押さん。』言うとるらしいんです。」
「そう・・その旦那って、どんな奴?」
「それが・・ちょっと・・あっちの世界に知り合いが多い奴で・・」
「会った事が有るのか?」
「はい。というか、彼女・・あ、マリという名なんですが、マリが、そいつに、わしとの事を話して・・そしたら、そいつ、勝手に店まで来て・・店の外で、ちょっとややこしい事になってしもうて・・」
「うん・・」
「そいつが、『他人の女に手を出すな。』とか言うて、わしの胸をどつく様にしたもんですから、わしも頭に来て、そいつの腕を振り払うたんです。まあ、そこで大人しゅうしとったら、え(良)かったんでしょうが・・ 兎に角、話が出来ん様になって・・」
「そう・・ で、俺は、どうすれば好いんだ?」
「・・いや、別に・・どうして下さいとは・・言えませんが・・」
「お前、バカか?」
「・・・?」
「お前な、好きな人が出来て、一緒になりたいんですが、その好きな女性は、まだ正式に離婚していなくて、それを知りながら付き合ってる処に、別居中の旦那が現れて、ちょいとゴタゴタが有ったんです。それで、今もゴタゴタしてるんですって、そんな話を、俺に聞かせる為にだけで、此処で会う事にしたのか? それなら、話は、聞いたし、もう用事は、無いな?」
「・・いや・・・」
「じゃあどうなんだ? 俺は、一体、何をどうすれば好いんだ?」
「・・それで、その・・別居中の奴が、『きっちり話を着けようや。』と、言うて来て・・実は・・、今晩会う事になっとるんですが・・どうも向こうは、一人で来るんじゃのうて・・誰かと一緒に来る様な事を言うとるんです。」
「それで?」
「それで、どうしたらええかと思うて・・N(会社の後輩)に相談したんです。そしたら、Nが、潤さんに相談する様に言うもんですから・・」
「そう・・、つまり、俺は、お前と一緒に、今晩その男に会えば好いんだな?」
「はあ・・出来れば、そうして貰えたら・・」
「話は、分かった。だけど、お前、本気でその女性と一緒になりたいんだな? 相手の女性の気持ちも確かめているんだな?」
「はい。」
「その相手の何処が好きなんだ?」
「いや・・別に、何処がええとか・・そういうんじゃのうて、そいつと一緒に居ると、何か落ち着いて・・ずっと一緒に居りたいと思うんです。何か・・自分の気持ちが安らぐというか・・ あまり美人じゃないんですけど・・」
「分かった。・・それだけ聞けば充分だ。好きになるってのは、特にどうって訳じゃないけど、兎に角、好きだってのが重要だからな・・」
「はぁ・・」
俺は、買い物を終えた多恵と愛を先に家に帰らせた。
「まず、お前がそこまで惚れた相手に会わせて貰えるかな?」
彼は、すぐにマリに連絡をした。
そして、俺と賢治(後輩)は、彼女の住まいの近くまで行った。
大通りで、子供連れで待っている彼女を車に乗せ、俺は、取り敢えず、音楽仲間のYさんの喫茶店に行った。何と云っても、知りあいの喫茶店なら、俺自身、落ち着いて話せると思ったからだ。
店に入ると、Yさんは、俺達が少々ややこしい話をする為に来たんだな とすぐに察してくれた様子だ。彼は、
「潤くん、あっちの席に行ったらええよ。」
と、何時も予約席で使う処を勧めてくれた。
席に着いて、改めてお互いの紹介をした後、俺は、彼女と話し始める。
「フィリピンの何処に住んでたの?」
「マニラです。」
「マニラの何処? 生まれてから、ずっとマニラに住んでるの?」
夜勤明け。
いくら早く終わったとしても、やはり、人は、夜、眠るのが身体に好いんだな。
このところ、夜勤から少しだけ解放されていたので、午前3時には家に帰ったのだけれど、なるべく物音を発てない様に、シャワーを浴びてすぐに眠った・・
「・・もしもし、朝ですよ~・・ 起きてくださ~い・・」
「・・・」
「・・朝ですよ~・・」
「・・あぁ おはよう・・(6時・・前か・・) 早いね、もう起きたの?」
「うん、一緒に水遣りする約束だから・・」
「あ、そうだったね。起こしてくれてありがとうね・・」
俺が目覚めたのを見届けて、愛は、部屋から出て、多恵に、俺の起床を伝える。
「・・おはよう。」
「おはよう・・潤ちゃん、昨日、帰ったの3時過ぎてたでしょ? 大丈夫・・?」
「ああ、俺は、少し眠るだけで24時間は起きて居れるから、問題ない。」
「もう少し待ちなさいって言ったんだけどね、愛が、何度も『もう好いかなぁ・・』って聞くから・・」
「構わないさ。昨日からの約束だから・・」
などと話しているうちに、愛は、もう菜園に水をやっている。
俺も加わって、二人で水を遣りながら、まず天気の話から始める。
そして、何時も同じではないが、最近の若者の(^^)情報など仕入れる。いやはや・・・
「おっ、トマトが三つ赤くなってる。ちょうど一人1個ずつ食べれるな。」
「・・あのね、おばあちゃんが、昨日、『トマトが、美味しそうじゃね。』って言ってたよ。」
「そう? じゃあ、ひとつ採って、持って行ってあげると好いよ。」
愛は、頷いて、3個のうちのどれにしようかなぁ・・と見定める様に・・。そして、上手にもぎ取って、大家さんちへ・・
帰って来た愛に、
「今日は、このトマトとレタスで野菜サンドを作ろう。ママにそう言ってくれるかな?」
と言うと、彼女、
「は~い。」
と、残りの二つを持って、家の中に消えた。
朝食の後、ソファーでウトウトしていると、携帯が鳴る。
同じ会社の後輩から、
「ちょっとだけでいいから、何処かで会いたいのですが・・」
ちょっとだけ で、本当にちょっとで終わった事は記憶にないが、
「ああ、好いよ。」
と。
丁度、買い物に行く予定だったから、後輩も知っているスーパーで待ち合わせ。多恵と愛が、買い物をする間、俺は、後輩と会う事にした。
彼は、かなり早めに来ていた様だった。
「どうした? 何時も時間ギリギリのお前が、もう来ているなんて・・」
と、俺は、笑いながら・・
「はぁ・・」
殆ど毎日顔を合わせている間柄だから、表情を見れば、その相談内容の程度も想像は出来る。
「なんだよ、お前、小さくなってるぞ。」
「はぁ・・すみません・・」
話は、どうやら、小さな事ではなさそうだ。
だけど・・乗り掛かってしまった もんなぁ・・
(2)
「・・実は、好きな奴が出来て・・」
「あ、そう・・」
「それで、一緒になりたいんですが・・ちょっと問題が有って・・」
「うん・・」
「彼女は、フィリピン人で、行き付けの飲み屋で働いとるんですが・・話すうちに何かええ(好い)なと思い初めて・・だんだんプライベートな付き合いになって・・ 彼女には、子供(男の子・4歳)が一人居るんですが・・その子も一緒に3人で遊びに行ったりして、何かええ感じになって・・ 『一緒に暮らそうか・・』言うたら、彼女、『一緒に暮らしたいけど、まだ前の旦那と離婚していないから・・』と・・」
「うん・・」
「それで、別居し始めて、もう随分になるのに、離婚をせん相手とはどんな奴か聞いたんです。そしたら、何か・・ややこしそうな奴で・・『一緒に住もうが住むまいが、絶対に離婚用紙にハンコは押さん。』言うとるらしいんです。」
「そう・・その旦那って、どんな奴?」
「それが・・ちょっと・・あっちの世界に知り合いが多い奴で・・」
「会った事が有るのか?」
「はい。というか、彼女・・あ、マリという名なんですが、マリが、そいつに、わしとの事を話して・・そしたら、そいつ、勝手に店まで来て・・店の外で、ちょっとややこしい事になってしもうて・・」
「うん・・」
「そいつが、『他人の女に手を出すな。』とか言うて、わしの胸をどつく様にしたもんですから、わしも頭に来て、そいつの腕を振り払うたんです。まあ、そこで大人しゅうしとったら、え(良)かったんでしょうが・・ 兎に角、話が出来ん様になって・・」
「そう・・ で、俺は、どうすれば好いんだ?」
「・・いや、別に・・どうして下さいとは・・言えませんが・・」
「お前、バカか?」
「・・・?」
「お前な、好きな人が出来て、一緒になりたいんですが、その好きな女性は、まだ正式に離婚していなくて、それを知りながら付き合ってる処に、別居中の旦那が現れて、ちょいとゴタゴタが有ったんです。それで、今もゴタゴタしてるんですって、そんな話を、俺に聞かせる為にだけで、此処で会う事にしたのか? それなら、話は、聞いたし、もう用事は、無いな?」
「・・いや・・・」
「じゃあどうなんだ? 俺は、一体、何をどうすれば好いんだ?」
「・・それで、その・・別居中の奴が、『きっちり話を着けようや。』と、言うて来て・・実は・・、今晩会う事になっとるんですが・・どうも向こうは、一人で来るんじゃのうて・・誰かと一緒に来る様な事を言うとるんです。」
「それで?」
「それで、どうしたらええかと思うて・・N(会社の後輩)に相談したんです。そしたら、Nが、潤さんに相談する様に言うもんですから・・」
「そう・・、つまり、俺は、お前と一緒に、今晩その男に会えば好いんだな?」
「はあ・・出来れば、そうして貰えたら・・」
「話は、分かった。だけど、お前、本気でその女性と一緒になりたいんだな? 相手の女性の気持ちも確かめているんだな?」
「はい。」
「その相手の何処が好きなんだ?」
「いや・・別に、何処がええとか・・そういうんじゃのうて、そいつと一緒に居ると、何か落ち着いて・・ずっと一緒に居りたいと思うんです。何か・・自分の気持ちが安らぐというか・・ あまり美人じゃないんですけど・・」
「分かった。・・それだけ聞けば充分だ。好きになるってのは、特にどうって訳じゃないけど、兎に角、好きだってのが重要だからな・・」
「はぁ・・」
俺は、買い物を終えた多恵と愛を先に家に帰らせた。
「まず、お前がそこまで惚れた相手に会わせて貰えるかな?」
彼は、すぐにマリに連絡をした。
そして、俺と賢治(後輩)は、彼女の住まいの近くまで行った。
大通りで、子供連れで待っている彼女を車に乗せ、俺は、取り敢えず、音楽仲間のYさんの喫茶店に行った。何と云っても、知りあいの喫茶店なら、俺自身、落ち着いて話せると思ったからだ。
店に入ると、Yさんは、俺達が少々ややこしい話をする為に来たんだな とすぐに察してくれた様子だ。彼は、
「潤くん、あっちの席に行ったらええよ。」
と、何時も予約席で使う処を勧めてくれた。
席に着いて、改めてお互いの紹介をした後、俺は、彼女と話し始める。
「フィリピンの何処に住んでたの?」
「マニラです。」
「マニラの何処? 生まれてから、ずっとマニラに住んでるの?」