Hysteric Papillion 第9話
ありすぎて、何が最初に口を割るかが、怖い。
そんな私の顔が異常に強張っていたのか、和美さんは、私の両頬に手を当てて、軽く撫でた。
唇が密着しそうで、薫さんとのことを思い出してしまって、ゴクッと息と唾液を飲み下す。
「…帰りましょうか?」
和美さんの言葉に、ギクシャクしながら何度もうなづいた時、カランカランと店のドアベルが鳴った。
こちらに流れ込む長い影が不意に目に入り、立ち上がる。
「…冴島」
「そろそろお帰りの時間です」
『お嬢様』と小さく語尾につけて、スタスタとテンポよい音とともに、和美さんと私の元に近づいてきた。
背が高くて、一見普通の大学生に見える、口うるさい私のお目付け役。
冴島は、私の手を握り、また、同時に和美さんの顔をにらみつけるように、冷たい視線を送った。
「…失礼」
「ええ、さようなら、ナイト様??」
この皮肉めいた和美さんの言葉に、冴島はいつもなら見せないような、こめかみの筋肉を少し引き上げたような顔を見せた。
一方の和美さんは、私に手を振りながら、同時に冴島をいたぶっているように見えた。
まるで、犬と猿、まさしく犬猿の仲というもの。
この2人、やっぱり合わないのかな…。
私のシリアスな心境に、ほんの少しだけパロディを加えてくれたエピソードだった。
作品名:Hysteric Papillion 第9話 作家名:奥谷紗耶