慟哭の箱 12
扉が閉まって一人になる。野上は息をついて窓の外に目をやる。
大丈夫だったかな、いつも通り喋れていたかな、と清瀬との会話を反芻する。こんなのは自分らしくなくて嫌なのに。自分で自分の感情をコントロールできなくなる。
(もう、真尋のせい)
今日のカウンセリングで、真尋からずばり指摘されたのだ。
「野上先生はさ、清瀬サンに惚れてるでしょう?」
はん、と鼻で笑い飛ばすこともできずに固まってしまったのは、どうしても自分で認めたくなかったことを、まさかこの子に言い当てられるとは思ってもみなかったから。
「図星だ~!」
「…なんでそう思うの」
「だって清瀬サンに対してだけだよ、きついっていうかプンプンしてるの。気づきなさいよバカ!鈍いのよ!好きなのよ!みたいな」
そんなの自覚したこともなかった。ぽかんとしている野上に、真尋は嬉しそうに笑って見せた。
「あのヒト、ヌボーッとしてるからさ、野上先生みたいな気の強いヒトぴったりだと思うよ。清瀬サンが今まで付き合ったタイプって、控えめで大人しいお嬢様タイプが多かったと俺は見てるんだ。それってやっぱ相性がよくなかったんだよ」
観察眼には自信があるのだ、と真尋は胸を張る。
「清瀬サンはまったく気づいてないけどね」
「…よく見てるのね」
否定も肯定もせず、そういうに留めた。なんだか他者に指摘され自覚すると、一気にのめりこんでしまいそうで怖い。精神科医であるのに、恋愛のために冷静でいられなくなるなんて嫌だ。
「…清瀬サンはさあ」
「うん?」
「俺らのこと、一弥がしたこと、ぜーんぶ一人で墓場まで持っていく気でいるよ」
「……」
「先生だけだ、あの重たい荷物を一緒に背負ってあげられるの。だから、お願い」
「真尋くん…」