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熾(おき)
熾(おき)
novelistID. 55931
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月のあなた 下(2/4)

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 この時代の人間とは思えぬほど肉弾戦の攻防に秀で、自分の様な人外との戦闘にも怯まない。さらには鋼鉄を裂くほど硬化した爪を立てても貫けぬ、鎖帷子のような何かを着込んでおり、これは破壊をあきらめねばならなかった。

(飛び道具の撃ち合いにならずに、むしろ良かったか。)

 だが、どれだけの防具を着込んでも、所詮相手は生身の人間である。打ち据え、蹴り込み、投げ飛ばすごとに、肉が潰れ、骨が軋んでいるはずであった。相手が何も言わずに立ち上がり、突撃を掛けてくる姿には感動さえ覚えた。それでも結局、相手の打撃がくる瞬間に、衝突部を流動化できる彼の敵ではなかった。
 最後に後ろを取り、腕を取りつつ首を締め上げた。
 相手の息はほとんど上がっていた。 

「左肩だったな」
「……!」

 力を込めると、鎧の関節から火花が飛び散る。ごきり、と音がして、鎧の中の腕が外れたのが分かった。それと同時に、締め上げていた首の上も、だらりと下がり、動かなくなる。

「最後まで音を上げぬか」

 意識を失った男を床に横たえた。そして、傍らで眠っていた少女をもう一度抱え上げる。

「抵抗は無駄と分かっただろう」

 再び監視カメラに呼びかける。

「これ以上邪魔をするなら、お前たちの大切なものを削り取って行くしかない」

 少女のうなじにかじりつく様に、大きく口を開けた。

「待ってください」

 彼は口を放した。

「石に通じる門を開けろ。いいか、二度は言わぬぞ」

 またしばらく、中庭を沈黙が覆った。

「…わかりました。生徒は必ず解放してください」

 やがて地面の下から、大がかりな歯車の回るような音や、鉱物のこすれ合う音が聞こえた。それが終わると、庭の外周にある背の高い生垣の方で、巨大な石蓋があげられるような音がした。
 そこまで行くと、大きな鳥籠の形をした網の下で、床が円い闇に沈んでいる。闇の中へは、らせん状の階段が続いていた。
 彼は少女を抱えたまま、階段を降りて行った。

 階段を降り切ると、人一人が通れるほどの黒い通路が続く。通路の壁には白い小さな明かりがともされ、なだらかならせん状に続いていく。途中で何度か目の前に鉄扉が現れたが、近づくと音もなく壁に吸い込まれて行った。

(ただの学校に祀られた石にしては…随分)

 そう思ったところで、

「ん…」

 抱えていた少女が目を覚ました。