小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

レイドリフト・ドラゴンメイド 第5話 光の行方

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
「撃って! 」
 達美の誘導にしたがったPP社の警備員たちが、保有する火器を一斉に放った。
 とはいっても、持つのは小さな鉄の塊を高速でぶつける、昔ながらの口径5.56ミリ自動小銃。
 パワードスーツ、ドラゴンマニキュアを着たところで、それは変わらない。
 身長4メートルあるドラゴンドレスにしても、口径が12.7ミリに大きくなるだけだ。
 そしてフルオートで発射する銃など、3秒で弾切れになる。
 今はタイミングを合わせ、弾幕を少しでも集中させなければ効果はない。

 目標は、武産や一磨が予知した5発の短距離弾道ミサイル。
 達美にも、それの爆発や黒煙が、山頂に雲と雪を冠とする、雄大なベルム山脈をぶち壊しにするのは分かっていた。
 飛び出したミサイルは全長が約6メートル。直径50センチメートルほど。
 速度はマッハ3。射程が125キロメートルある。
 弾頭は様々。あれは歩兵や軽車両を対象にする小型爆弾、または対人地雷。
 戦車などの装甲の熱い兵器を対象にする成形炸薬子弾を200発近くまき散らすタイプもある。
 一つ都合の良い点を挙げるとすれば、チェ連は核兵器を使いたがらないことだ。

 頭を出したばかりのミサイルが1つ、弾幕に捕らえられ、おさめられたサイロで爆発。
 その衝撃がほかのサイロに伝わり、ミサイルが次々に爆発する。
 かろうじて飛び出した2発目も、エンジンからの噴射が無茶苦茶な方向に吹き出し、空中でぐるぐる回転した後、山に突っ込んだ。
 
 弾幕の3秒が終わった。
 逃れたミサイルは3発。
 
 達美は頭をミサイルに向け、急降下を始めた。
 背中のジェットパックに意識を集中させる。
 ジェットエンジンの中で、空気を加熱・膨張させるのにつかわれるレーザー。
 鏡を使ってエンジン内を回転するレーザーを、鏡の角度を変えることで前方へ発射する。
 3発のミサイルは、たちまち先端の鉄板を横一文字に赤く焼切られた。
 たちまち弾頭が燃え上がり、殺傷力のある衝撃と熱、鉄片が吐き出される。

 達美は羽をたたみ、手足をちぢめて丸くなった。
 破壊の力に当たらないようにするためだ。
 衝撃に揺さぶられないため、関節の油圧システムを固定する。
 首を縮め、心臓と脳の距離を最短にする。
 轟音。爆音。
 衝撃が止んだ。
 チタン製の骨格は、それに耐えてくれた。
 翼を戻し、姿勢をなおして巡回飛行に戻る。

「ドラゴンメイド!! そこを動くな! 」
 自分のレイドリフトとしての名を呼ぶ声に気付き、達美は下を見た。
 自分を追う人間大の白と黒の影が見えた。
 武産だ。
 今はレイドリフト2号の証である1号と同じ牙を掘りこんだ黒塗りの面頬を口元に、背中から白い羽が生えている。
 黒いレザーアーマーのドレスに彩られた白い魔界文字列が、彼女の魔力で浮かび上がり、力を行使しているのだ。
 まっすぐドラゴンメイドの高度まで飛んでくると、軌道を90度曲げて横に並ぶ。
 航空機などの航空力学を無視した動きだ。
「あんたの照準! めちゃくちゃよ! 」
 レイドリフト2号が大きな双眼鏡のようなものを手にしていた。
 ターゲット・ロケータ。
 自衛隊も使う、隊員個人で使える目標補足装置。
 GPSにより現在位置を測定し、レーザー測量機で目標との距離を測る。
 ビデオカメラ、夜間でも赤外線センサで目標を捕捉し、無線で味方に観測情報を送れる。
 スイッチアにはGPS衛星がないため、地球人が仮設した携帯電話用の気球無線中継システムを使っている。
「これ使って! 」
 2号が投げてよこしたターゲット・ロケータを、ドラゴンメイドは軌道を変えてよけた。
 落下するターゲット・ロケータは、3つのリングに変わり、消えていった。
 リングにそれぞれ書かれた魔界文字は、ターゲット・ロケータの形になる。ドラゴンメイドに張り付く。重力を大きくして、地上まで落とす。
「さすがに、わかっちゃうわね」
 2号が悪びれた様子で言った。
 ドラゴンメイドの猫の脳には、こういう使い方もある。
 通常のカメラに解析システムをつけても、魔術のような通常物理では、あり得ない光景を見た場合、役に立たないことがある。
 カメラについた汚れと区別がつかないことがあるのだ。
 その点、猫にはもともと、この世のものではない者を見る力がある。
 真脇 達美が魔術学園にいるのは、その観測能力の高さ、教材としての価値があるからだ。
 決して生徒として在学しているわけではない。

 それに、2号がうそをついた理由もわかる。
「わかってるよ。私たちを確実に帰すためでしょ」
 そう、それが2号達の任務だからだ。

「おっと」
 2号が、要塞から放たれた自分たちに向かってくる対空ミサイルを見つけた。
 両手をそろえて、長い棒を握るような形にする。
 たちまち光の輪が無数に生み出され、重なり合い、棒状になる。
 その先端に、槍の切っ先として大きなリングがうまれた。
 柄は射程を延ばす。切っ先はすべてを切り裂く。この二つの概念を極限まで高めた、魔槍インウィクトゥス。
「インウー! 」
 そう言ってふるうだけで、柄は伸び、刃先は目標をとらえ、ミサイルははるか下で爆発した。
 対空砲も、鞭のように弾道を大きく揺らしながら迫る。
 二人のレイドリフトは、一人は科学で、もう一人は魔術で確認しつつ、回避し、迎撃する。

 2人のレイドリフトが時間を稼いだ分、体制を整えた自衛隊やルルディ騎士団の攻撃が始まった。
 こんな状況でも、ドラゴンメイドのセンサは周囲の情報を逃がさない。
 まず、空港へのゲートを超え、覆う土壁の外へ出てきたのはルルディ騎士団だった。
 翼の生えた黒馬にまたがった騎兵が中心だ。
 柄の長い槍や斧を持つ歩兵が空港の外で横に広がる。
 彼らの鎧は、黒い炎のようなとがった飾を天にそそり立たせていた。
 その飾りが装着者の魔力を吸い、本物の炎のように揺らめく。
 さらにその炎は高さを増し、要塞と空港の間に天まで届く黒い防壁となった。
 要塞からの攻撃が、雨あられと襲ってくる。
 しかし、そのすべてが防壁の熱で蒸発する。

 その後ろから左右に、自衛隊の10式戦車と機動戦闘車が展開し始めた。
 黒い炎の防壁は、半透明だ。
 自衛隊の車両は次々に砲塔を要塞に向けていく。
 そして防壁の影から出る時、煙幕を張った。
 この煙幕は、アルミ片も入ったレーダー電波を防ぐタイプだ。
 赤外線も防ぐから、外から中を見るのは極めて困難だ。
 当然、中からも。
 要塞からは、やたらめったに撃つしかなかった。
 反対に自衛隊の砲撃は、正確に要塞を打ち抜いていく。
 10式戦車と機動戦闘車の指揮・射撃管制装置には、走行中も主砲の照準を目標に指向し続ける自動追尾機能がある。
 
 生徒会とその迎えは、次々にボルケーナの中へ逃げ込んでいる。
 12回もこんな異世界調査をやっていれば、取材陣もなれたものだ。

 一方、エピコス師団長たちの乗る、さっきまで達美達が乗っていたコンボイは……。
「……どうしたの? 」
 コンボイを構成する装甲車は、土壁の内側、空港の敷地内にいた。