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嫌いなあの子

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嫌いなあの子



高校の時、どうしようもなく嫌いな子がいた。
その子は香奈と言う名前で、1年生の時から同じクラスで、しかも名簿が僕の一つ前だった。そこから3年間、卒業まで同じクラスが続くことになるのだが、香奈は登校初日からやけに馴れ馴れしくて、うっとおしい女だなと思った。最初から最悪の印象だった訳だ。
入学から数日経って初めての席替えがあった時、やっとこの女から離れられると思った。授業中も後ろを向いてわからないところを聞いてくるし、休み時間になると当たり前のように話しかけてくる。僕はその度に適当にあしらって、仲良くなった男友達の所に行ったり、行きたくもないのにトイレに行ったりしてやりすごしていた。その生活ともお別れできると思ったのだ。ところが、その席替えは状況を更に悪くした。なんと香奈は僕の隣の席になったのだ。それから秋学期まで席替えはないので、あと半年はこのまま我慢しなければならない。隣の彼女は、僕と目が合うと嬉しそうに笑った。溜め息がでる。


高校初めての行事での事だった。
それは学年全体で遠足へ行くというもので、現地ではクラス毎に行動をする。1クラスに45人いたので、クラスの中でも班を7個作った。先生が独断で班を組んだらしいが、どういう訳か香奈と同じ班になってしまった。香奈はどちらかというと引っ込み思案な方で、僕以外と話している所はほとんど見たことがなかった。大体、いつも香奈は僕の視界に映る範囲にいたのに見たことがないということは本当に僕以外とはほとんど話さないのだろう。 この頃、あまりにも香奈が僕の側にくっついているせいでクラスでは、いや、学年内で熱々のカップルだとよくからかわれた。本当に迷惑な話だが、香奈の耳には届いてなかったようだ。 そういえば香奈は、僕に絡んでくる以外は本を読んでいた。本の内容は知らない。
つまり、僕と香奈が同じ班になったのは先生なりの配慮だったのだろうと思う。香奈を僕と離してしまったら香奈は確実に一人ぼっちだ。こういう行事の時は、問題のある子は特に考慮して班を組むと何かで聞いた事があったのでそれかなと思った。僕としては非常に迷惑な話だったが、香奈はやっぱり嬉しそうだった。
遠足は、学校からマイクロバスで2時間ほど走った場所にある山に登るというものだった。当然、移動時のバスでも隣には香奈がいて、ずっと話しかけてくる。どうして僕以外に話しかけないのか理解ができなかったが、何か事情があるのだろうとこの時は思った。
うんざりするほど(体感ではあるが)長いバス移動時間を経て山に着くと、番号の若いクラスから順に山登りを開始した。僕のクラスは真ん中よりやや後ろといったところだ。皆は口々にダルいだのしんどいだのめんどいだの言っていた。その日は時期的に虫もそこまで多くなく、雨も降らず暑すぎずで絶好の遠足日和だった。しばらく山中を歩いていると、隣を歩いていたはずの香奈の姿が突然消えた。僕は、おかしいなと思いつつもちょっと解放された気分になって、そのまま歩き続けてしまった。
大体1時間30分ほど歩くと、目的地である山頂……ではなく山を抜けた所にある公園に着いて、班毎にお昼ご飯を食べることになった。山頂にいかないのなら山登りをする意味がないだろうと思うが、歩くことに意味があるのだと担任は言っていた。
お昼休憩に入る前の点呼の時に問題が起こった。なんと香奈がどこにもいないらしい。先生達が慌てる中、クラスの人達は香奈がいなくなったと知ってもなんの反応も示さなかった。それどころか、あんなやつどうでもいいから早く飯を食わせろと呟く奴までいた。僕はそれを聞いてちょっとムカついたが、香奈の為に怒るのも恥ずかしいという、中学生的な気持ちが勝り、結局何もできなかった。そうこうしていると、僕は副担任に呼ばれた。

「バスから山の中に入るまで片平さんとずっと一緒にいたんだよね?」

「いましたけど……」

「どこでいなくなったかわかる? ここまで一緒に来た?」

「途中でいなくなりました」

「どこで?」

「……わかりません」

副担任は大きな溜め息を吐いた。いいよ、ありがとう。と早口で言って、副担任は去っていった。僕のクラスの後ろに3クラスあったのに、その誰も香奈の事を見てないそうだ。最後尾にいた先生も、生徒は誰一人置いてきてないと言っているらしい。
香奈がすぐ見付かればよかったのだが、公園に到着してから1時間が経っても何も進展がないようで、とうとう僕達は先に帰ることになった。警察を呼んで本格的に捜査するらしい。帰り道は、少しだけ隣が寂しかった。行きはあれだけうっとおしいと思っていたのに、いざいなくなってみると何か物足りない気分になる。だが、それも友達と話したりゲームをしたりしている内に薄らいでいって、行きよりも短いバス移動が終わり、遠足も終わりとなった。

結果だけ言うと、香奈は山の中で見つかった。香奈は山を歩いている途中でトイレをしたくなったが、男である僕にも担任にも副担任にも言い出せず、2人しかいない女の先生は前の方に行ってしまっていたので、仕方なくこっそり列から抜けてしまった。普段からほとんど運動をしないせいで体力が著しく低くなっており、更に軽度の貧血にもなっていたせいで、座り込んだら立ち上がれなくなったらしい。
最後尾の先生や他の生徒が気付かなかったのは、足場の悪さに気をとられていたり、お喋りに夢中になっていたり、香奈がその日は暗めの服をきていて、薄暗い山の中で完全に隠れてしまったりと色々な原因が考えられるみたいだが、この件は教師達の管理不足によるものが原因ということで、香奈と香奈の家族には校長と担任が謝罪に行ったらしい。この話を母親から告げられた時、香奈が見つかってほっとした自分がいることに驚いた。嫌いなのではなかったか。じゃあいなくなってしまえばいい? いや、そういう訳でもない。もうどうでもいいや。あいつは無事だったんだから。
その夜は色々と考えすぎて6時間しか眠れなかった。
次の日、香奈は学校を休んだが、その次の日は来た。皆は香奈を見ると、口々に、大丈夫? だのなんだのと声を掛け始めた。香奈は困っていた。多分、曖昧な返事しかできていなかっただろうと思う。ようやく僕の隣に座ると、おはよう、と照れ笑いしながら言ってきた。僕は複雑な気持ちで香奈の目を見ずにおはようと返した。

それから、普通に授業を受けたり、部活動をがんばったり、香奈に話しかけられたり、香奈に話しかけられたり、香奈に話しかけられたりした。あの日以来僕は、香奈と普通に話すようになった。それまでは適当にあしらう感じだったのに、どういう心境の変化なのだろう。今になってもわからない。香奈にも変化があって、僕以外のクラスの子とも話すようになった。そして、何故か僕と香奈が付き合っているという噂は更に更に広がって、遂に母親にまで知れてしまった。まぁ、一年目の春学期といえば他には特に何事もなく過ぎていって、夏休みがやって来た。
作品名:嫌いなあの子 作家名:mopo