君のいないBrandnewday
「ま、気を付けてくださいってことだね…っと、僕、今日朝練だから、もう行くね」
「ああ、気を付けてね。忘れ物すんなよ?」
竜二は、キッチンに食器を持っていくなり、すぐにカバンを背負って元気よく『いってきまーす』と叫んで飛び出して行った。
朝練がある日にわざわざ、朝ごはん作ってくれなくていいのに。
そう思う、この思いこそ、母心、というものなのだろうか?
この頃そのような思いをよく感じるようになった。
年なのかな、自分…と思うけれど、悪い気持ちではない。
あれから、10年ちょっと。
私はオーナーの元から独立して、竜二はごくごく普通の高校生をやっている。
いろいろ思い悩んで、時にはケンカして、叱り倒して、自己嫌悪に陥って。
その繰り返しだったけれど、全然竜二を引き取って後悔する日なんて、なかった。
竜二は、すごくいい子に育っています。
顔は…かなり直子さんに似ています。
そろそろ彼女の一人や二人を連れてくるのが楽しみ、なんてね?
そう、私は毎朝直子さんの写真へと話しかける。
そのたびに、直子さんは、ほほ笑んでくれる。
そんな気が、していた。
作品名:君のいないBrandnewday 作家名:奥谷紗耶