司令官は名古屋嬢 第6話 『一部』
中京都への入口は、木曽川に架けられた道路橋であった。元々、東海道新幹線の橋もすぐ近くに架けられていたが、今は川の中に沈んでいる……。
その橋の手前には、厳重な警備体制が敷かれている検問所があった。その検問所は、3メートルの高さがあるコンクリート塀で囲まれており、通過できる鋼鉄製の2重の門は、トラック1台分の幅しかない。2つの門の周囲には、合計20人ほどの中京都軍の兵士が警戒しており、いかつい顔の軍用犬も2頭いた。
張り詰めた空気が漂っており、子供のイタズラでも命に関わりそうだ。兵士たちが持つ自動小銃『ルーマニアンAK47』には、初弾が装填済みで、いつでも撃てるようになっている。
上社たちの車列は、その検問所の前で停車する。すると、すぐに受付担当の2人の兵士が、先頭の上社たちの車に駆け寄り、
「身分証明書を拝見!」
運転手の八事に、高圧的に言った。上社たちは、味方である中京都軍の服装をしていたが、警戒心を緩めていないようだ。変装している危険性があるので、これは当然の対応だろう。
「…………」
八事は無言で、中京都軍のIDカードを兵士に差し出す。兵士は、差し出されたIDカードを受け取ると、持っていたモニター付き小型端末にカードを通した。
その紺色のIDカードには、中京都軍のマークである金色のシャチホコが印されており、顔写真や名前や個人番号などもついている。
「通ってよし!」
兵士はそう言うと、カードを八事に返す。それから、手前側の門の近くにいる兵士たちに合図を送る。
すると、「ビィーーー!!!」という電子音が鳴り、手前側の門が開く。兵士たちは、開いた門の左右に立ち、周囲を警戒する。
上社たちの車は、手前側の門を通り、まだ閉まっている橋側の門の前で止まる。すると、手前側の門が閉まり、橋側の門が開いた。 慎重を期すために、二重ゲートで往来に対応しているようだ。しかし、その手間のために、車列すべての車両が検問所を通過するのに時間がかかってしまった。
よくやく橋の上を走り出すと、東山が検問所のほうを振り返りながら、
「本当に面倒だな……」
文句を垂れた。
「何を言っているんだよ! 文化的な生活を守るためには、これぐらいガマンガマン!」
イスの間から前方を眺めている上社が言った。
橋を渡っている上社たちの車列の前方には、この世界の首都である中京都の地が広がっていた……。
作品名:司令官は名古屋嬢 第6話 『一部』 作家名:やまさん