恋愛偏差値 32
「若菜さん? 」
「楓君。あの家、おかしいよ。私今やっと祐二が家を出た理由が理解できた」
若菜さんは車を家の敷地から出し、駅前のコンビニの駐車場で車を停めた。
「でも、俺はーー 」
「楓君! あの家にずっといたら楓君が壊れちゃうよ。自分という存在を認められない場所にいたら、きっと心が壊れてしまうわ」
若菜さんは自分のことではないのに、泣きながらそう言った。まるで俺の分まで泣いているかのように沢山の涙を流した。
「楓君は本当にあの家に帰りたい? それとも迅か私の家に住みたい? 迷惑とかそういうの考えないで、正直な気持ちを教えて」
正直な気持ち。鼓動が早くなっていく。俺は意を決して、若菜さんに伝えた。
午後9時半過ぎ。俺は一度家に戻り、荷物をまとめ家を出た。兄ちゃんと同じように。そして電車に乗って東京に来た。駅から出て、白いメモと携帯を片手に歩き出す。10分ほどかけ、目的の場所に来た。
「高いな…… 」
何階建てなんだろう? 俺はそびえ立つマンションを見上げた。確か12階だった気がする。俺は中に入り、エレベーターを使って目的の部屋に向かった。そして最終目的地に着いた。
鼓動が高鳴る。ドクッドクッドクッ……と身体中に響き渡る。俺は勇気を振り絞り、震える手でインターホンを鳴らした。
「どちらさーー 」
扉は声とともに開いた。黒いTシャツにグレーのスウェットパンツを履いた彼。彼は驚いたのか、口を開け俺を見つめている。
「えっと、その……渋谷さんが来いって言ってたから来た」
「ははっ! 何でそんなに顔を赤くしてんだよ、楓」
「は⁉︎ 赤くなんか! 」
渋谷さんは口を押さえながら、肩を震わせて笑う。
「 ……あのさ、迷惑かけるかもしれないけど一緒にいてもいい? 」
「当たり前だろ。むしろ迷惑をかけてくれ。楓は俺を頼っていんだよ」
「な、なんだよ……それ」
やばい。泣きそうになった。渋谷さんの言葉は俺の胸にストンと落ち、俺を安心させた。 昔からそうだ。渋谷さんと俺はそこまで親しい間柄ではないのに、渋谷さんは優しくしてくれた。俺が倒れた時も一番俺を心配してくれた。
「泣いてもいんだよ、楓」
「子供扱いするな」
意地悪に笑う渋谷さん。俺の頭をポンポン叩きドアを大きく開いた。
「入りなよ」
「 ……お邪魔します」
今日から始まる俺と渋谷さんの同居生活。不安と楽しみが混じり合った感情を抱きながら、部屋に一歩足を踏み入れた。