お母さんVSカエル。
お母さんはたくさんメダカを飼っている。
メダカを入れている器の形はいろいろあって、その中に平たいお皿型の器がある。
直径は六十~七十センチ、深さは二十センチほどの器。
そこは白メダカさんたちのお家になっている。
真ん中には睡蓮の鉢が置かれていて、ホテイソウが二、三浮いている。
その周りを十匹ほどのメダカが泳いでいる。
五月から六月にかけて私はお母さんの家へと帰っていた。
その帰っている間、お母さんの口癖があった。
『あ~、またカエルが来るわぁ~。もうそろそろ、カエルの時期になる…。まだ見てないけど、絶対また来るなぁ~。』
と独り言のように嫌な気持ちを前向きにそう言っていた。
その言葉を聞いていた私は、お母さんとは反対の感情になる。
私はニコニコしながら、
『えっ?!カエルさん今年も来るの?!まだいないの?!』
と言う。
お母さんは私のその態度にイライラが増すようで、
『何嬉しそうに言ってるの?!お母さんはこんなにイヤなのに!!どうして嬉しそうにするの?!』
と言う。
でも私はやっぱり嬉しいので、
『カエルさんのご夫婦いつ来るかなぁ~。早く会いたいなぁ~。』
とルンルン気分で独り言を言う。
お母さんはそれを聞くと、誰に向かってか、
『いいや、来ないで!!カエルさんのご夫婦はいらないっ!!』
と叫ぶように何処かに訴える。
そしてまたお母さんは、カエルとの歴史を話し始める。
『毎日毎日、メダカの様子を見てて、ある時にふと、あれっ?!メダカの数が減ってる…?!ような気がしたんだけど、まあ気のせいかと思ってたのよ。そしてしばらくして、やっぱりメダカの数が減ってるのよ…。それで、どうしてなんだろうって毎日考えてたの。器の様子を見てる時に、水面からいつもカエルが顔を出してる事に気付いて、まさかとは思ったのよ。カエルがメダカを食べる…?!って思ったんだけど、その瞬間を見てないから断定のしようもなくて…。でもね、ある時にね、そのメダカの所に行ったらカエルが出て来たの。口から白いしっぽをペロンて出して…。カエルが、“ついにバレたかっ?!”って思ったかは分からないけど、“あ゛っ!!”っていう顔をした気がした。お母さんも同じように、“あ゛っ!!”ってなって、カエルと目が合ってた…。それでお母さんついつい、外だってこと忘れて、“あんたの仕業ねっ!?”って声が出ちゃった…。でもね、カエル…逃げないの…。逆にお母さんを睨み返してきた…。“あんたの家じゃないのよ!!”って言ったんだけど、逃げないの…。シッシッて手で追い払ったらすぐには逃げないんだけど、やっと逃げて行ったの。でもしばらくするとまた帰って来てて水面から顔を出してるの…。しかもそれ以来、カエルに睨まれるようになった…。はぁ~。』
という事が数年前にあって、それ以来お母さんは毎年カエルのご夫婦と戦い続けている。
お母さんが頭に来るとカエルに向かって、
『タダじゃないのよ!!家賃払いなさいっ!!家賃を!!』
と言う。
私はその話を電話で聞いていた。
『近所さんとかその辺を歩いてる人に聞かれてない?!』
と多少心配しながら聞くと、
『最初は、周り見て人がいないか確認してたけど、もうそんな事どうでもよくなった。毎日毎日メダカが減ってんのよ~!!頭に来るから!!そしたらね、誰かに聞かれるかも…なんて思う暇もなくなるの!!一回帰って来てみなさいよ!!そしたら、お母さんの気持ちが分かるから!!』
と腹を立てながらそう言われた。
私は上から網の蓋か何かをしたら良いと思ったので、その考えを伝えた。
名案だと思って言ったのに、お母さんの剣幕は変わらずに、
『もうしたーーーっ!!鉄の網を乗せたんだけど、中に入ってるのよ!!お母さんの見てない所で、カエルが自分の手で蓋をヨイショって開けてるんだと思う。夫婦揃って入ってるから、旦那が開けてあげて、その隙に奥さんが入ってるんじゃないかって思ってる…。』
と本気でそう言った。
その時期に一度、お母さんの家に帰って、その器を見に行った。
確かに網の蓋をしていたけど、グニャグニャと歪んでいた。
なので、縁を密閉するようになんてなってなくて、隙間がチラホラとあった。
その事をお母さんに伝えたら、
『こんな小さな隙間から入るかなぁ~。』
と言う。
思ってる以上にカエルは柔らかいと思う。
もしかしたら、入ってる時に蓋が持ち上がるかもしれないけど、顔が入るほどの隙間があればやっぱり入ると思う。
しかしお母さんは、カエルが蓋を手で持ち上げて入っている気がすると考えを変えなかった。
そして私はご夫婦を目撃した。
お母さんと一緒に見ていたらお母さんが、
『あの、お腹の大きいのが奥さんと思うのよ~。…家のメダカは美味しいですかっ?!』
と喧嘩腰に声をかけていた。
その瞬間を目の当たりにした…。
本当にそんな風にカエルに言ってるんだと…。
『お母さんが、そんな風に言い続けるからカエルがドンドンふてぶてしくなって、睨みが利くようにまでなってるんじゃないの?!もっと仲良くしたら?!』
と私が言ったら、
『ドンドンふてぶてしくなって結構です!!タダじゃないのよーっ!!家賃!!家賃!!』
とお母さんはその声をカエルにぶつけるように言った。
お母さんが毎日カエルに対してそんなことをしてたからか、私が見に行っても逃げない。
それどころか、カエルがこっちを向いて、本当に睨んでるように見える。
そーっと手を伸ばして、カエルのクチバシを触りに行ったら微動だにせず、ツンツンしてもムッとしたまま動きもしない。
睨みはそのままだ。
水の中に手を入れて、下からカエルの太ももをヨシヨシしたら、何故か気持ちよさそうだった。
睨めよっ!!と私は思った。
まっ、何はともあれ、すぐには逃げない。
しばらくしてやっとこさ私を睨み、ドッシンドッシンとジャンプして逃げて行く。
その事をお母さんに話すと、
『知ってる!!さすがにヨシヨシはしてないけど、しょうがなく逃げて行ってるのは知ってる。』
と当たり前だが、経験済みだった。
『カエルの奥さんは妊婦さんかもしれないんだから、優しくしてあげないと…。』
と私が言うと、お母さんは顔を苛つかせて、
『えっ?!優しくっ?!妊婦さんだからって優しくなんかしないっ!!妊婦さんならこっちに優しくして~っ!!タダで住んでるくせに…。』
と心からの叫びが聞こえた。
自分の家に戻ってからもお母さんからのカエルの話は尽きない。
ある日、お母さんがイライラしながら電話をかけて来た。
『メダカが数匹になったから、もう腹が立ってカエルを捕まえて、道路挟んだ前の田んぼに捨ててやったら、次の日戻って来てた…。』
とお母さんは腹が立ってるのに、声は落ち込んで行った。
『へーっ、ちゃんと帰って来るんだね!!でも目の前に捨てたら近すぎじゃない?!』
と私が言うと、
『そうそう。お母さんもそう思ったから、次はもっと遠くと思ってもっと離れた田んぼに捨てて来た。“もう二度と来ないでっ!!”って言いながら投げ捨てた。』
と自信ありげにお母さんは話した。
『で、また戻って来た?!』
と聞いたら、お母さんは含み笑いをしながら、
『それが、戻ってこないの~。お母さんが勝ったよ~!!』
メダカを入れている器の形はいろいろあって、その中に平たいお皿型の器がある。
直径は六十~七十センチ、深さは二十センチほどの器。
そこは白メダカさんたちのお家になっている。
真ん中には睡蓮の鉢が置かれていて、ホテイソウが二、三浮いている。
その周りを十匹ほどのメダカが泳いでいる。
五月から六月にかけて私はお母さんの家へと帰っていた。
その帰っている間、お母さんの口癖があった。
『あ~、またカエルが来るわぁ~。もうそろそろ、カエルの時期になる…。まだ見てないけど、絶対また来るなぁ~。』
と独り言のように嫌な気持ちを前向きにそう言っていた。
その言葉を聞いていた私は、お母さんとは反対の感情になる。
私はニコニコしながら、
『えっ?!カエルさん今年も来るの?!まだいないの?!』
と言う。
お母さんは私のその態度にイライラが増すようで、
『何嬉しそうに言ってるの?!お母さんはこんなにイヤなのに!!どうして嬉しそうにするの?!』
と言う。
でも私はやっぱり嬉しいので、
『カエルさんのご夫婦いつ来るかなぁ~。早く会いたいなぁ~。』
とルンルン気分で独り言を言う。
お母さんはそれを聞くと、誰に向かってか、
『いいや、来ないで!!カエルさんのご夫婦はいらないっ!!』
と叫ぶように何処かに訴える。
そしてまたお母さんは、カエルとの歴史を話し始める。
『毎日毎日、メダカの様子を見てて、ある時にふと、あれっ?!メダカの数が減ってる…?!ような気がしたんだけど、まあ気のせいかと思ってたのよ。そしてしばらくして、やっぱりメダカの数が減ってるのよ…。それで、どうしてなんだろうって毎日考えてたの。器の様子を見てる時に、水面からいつもカエルが顔を出してる事に気付いて、まさかとは思ったのよ。カエルがメダカを食べる…?!って思ったんだけど、その瞬間を見てないから断定のしようもなくて…。でもね、ある時にね、そのメダカの所に行ったらカエルが出て来たの。口から白いしっぽをペロンて出して…。カエルが、“ついにバレたかっ?!”って思ったかは分からないけど、“あ゛っ!!”っていう顔をした気がした。お母さんも同じように、“あ゛っ!!”ってなって、カエルと目が合ってた…。それでお母さんついつい、外だってこと忘れて、“あんたの仕業ねっ!?”って声が出ちゃった…。でもね、カエル…逃げないの…。逆にお母さんを睨み返してきた…。“あんたの家じゃないのよ!!”って言ったんだけど、逃げないの…。シッシッて手で追い払ったらすぐには逃げないんだけど、やっと逃げて行ったの。でもしばらくするとまた帰って来てて水面から顔を出してるの…。しかもそれ以来、カエルに睨まれるようになった…。はぁ~。』
という事が数年前にあって、それ以来お母さんは毎年カエルのご夫婦と戦い続けている。
お母さんが頭に来るとカエルに向かって、
『タダじゃないのよ!!家賃払いなさいっ!!家賃を!!』
と言う。
私はその話を電話で聞いていた。
『近所さんとかその辺を歩いてる人に聞かれてない?!』
と多少心配しながら聞くと、
『最初は、周り見て人がいないか確認してたけど、もうそんな事どうでもよくなった。毎日毎日メダカが減ってんのよ~!!頭に来るから!!そしたらね、誰かに聞かれるかも…なんて思う暇もなくなるの!!一回帰って来てみなさいよ!!そしたら、お母さんの気持ちが分かるから!!』
と腹を立てながらそう言われた。
私は上から網の蓋か何かをしたら良いと思ったので、その考えを伝えた。
名案だと思って言ったのに、お母さんの剣幕は変わらずに、
『もうしたーーーっ!!鉄の網を乗せたんだけど、中に入ってるのよ!!お母さんの見てない所で、カエルが自分の手で蓋をヨイショって開けてるんだと思う。夫婦揃って入ってるから、旦那が開けてあげて、その隙に奥さんが入ってるんじゃないかって思ってる…。』
と本気でそう言った。
その時期に一度、お母さんの家に帰って、その器を見に行った。
確かに網の蓋をしていたけど、グニャグニャと歪んでいた。
なので、縁を密閉するようになんてなってなくて、隙間がチラホラとあった。
その事をお母さんに伝えたら、
『こんな小さな隙間から入るかなぁ~。』
と言う。
思ってる以上にカエルは柔らかいと思う。
もしかしたら、入ってる時に蓋が持ち上がるかもしれないけど、顔が入るほどの隙間があればやっぱり入ると思う。
しかしお母さんは、カエルが蓋を手で持ち上げて入っている気がすると考えを変えなかった。
そして私はご夫婦を目撃した。
お母さんと一緒に見ていたらお母さんが、
『あの、お腹の大きいのが奥さんと思うのよ~。…家のメダカは美味しいですかっ?!』
と喧嘩腰に声をかけていた。
その瞬間を目の当たりにした…。
本当にそんな風にカエルに言ってるんだと…。
『お母さんが、そんな風に言い続けるからカエルがドンドンふてぶてしくなって、睨みが利くようにまでなってるんじゃないの?!もっと仲良くしたら?!』
と私が言ったら、
『ドンドンふてぶてしくなって結構です!!タダじゃないのよーっ!!家賃!!家賃!!』
とお母さんはその声をカエルにぶつけるように言った。
お母さんが毎日カエルに対してそんなことをしてたからか、私が見に行っても逃げない。
それどころか、カエルがこっちを向いて、本当に睨んでるように見える。
そーっと手を伸ばして、カエルのクチバシを触りに行ったら微動だにせず、ツンツンしてもムッとしたまま動きもしない。
睨みはそのままだ。
水の中に手を入れて、下からカエルの太ももをヨシヨシしたら、何故か気持ちよさそうだった。
睨めよっ!!と私は思った。
まっ、何はともあれ、すぐには逃げない。
しばらくしてやっとこさ私を睨み、ドッシンドッシンとジャンプして逃げて行く。
その事をお母さんに話すと、
『知ってる!!さすがにヨシヨシはしてないけど、しょうがなく逃げて行ってるのは知ってる。』
と当たり前だが、経験済みだった。
『カエルの奥さんは妊婦さんかもしれないんだから、優しくしてあげないと…。』
と私が言うと、お母さんは顔を苛つかせて、
『えっ?!優しくっ?!妊婦さんだからって優しくなんかしないっ!!妊婦さんならこっちに優しくして~っ!!タダで住んでるくせに…。』
と心からの叫びが聞こえた。
自分の家に戻ってからもお母さんからのカエルの話は尽きない。
ある日、お母さんがイライラしながら電話をかけて来た。
『メダカが数匹になったから、もう腹が立ってカエルを捕まえて、道路挟んだ前の田んぼに捨ててやったら、次の日戻って来てた…。』
とお母さんは腹が立ってるのに、声は落ち込んで行った。
『へーっ、ちゃんと帰って来るんだね!!でも目の前に捨てたら近すぎじゃない?!』
と私が言うと、
『そうそう。お母さんもそう思ったから、次はもっと遠くと思ってもっと離れた田んぼに捨てて来た。“もう二度と来ないでっ!!”って言いながら投げ捨てた。』
と自信ありげにお母さんは話した。
『で、また戻って来た?!』
と聞いたら、お母さんは含み笑いをしながら、
『それが、戻ってこないの~。お母さんが勝ったよ~!!』
作品名:お母さんVSカエル。 作家名:きんぎょ日和