ウソップ物語:黙っていたうさぎ
西の森には食べ物がたくさんありました。くまさんたちは、張り切って、たくさんの木の実や、葉や、畑に植えられそうな種を見つけては、持っていたカゴに入れました。やがて、全員の持つカゴが一杯になったので、宿営地に戻ることになりました。
その時、木の陰から人間が一人、現れました。西の森の派遣隊は、初めて人間と遭遇して大騒ぎになりました。くまさんが大声で叫びました。
「人間は大したことできないよ!僕があいつを驚かすから、その間にみんなは取った食べ物を持って先に行ってて!」
くまさんは、人間のほうへ走っていきました。数メートルのところまで近づいた時、立ち上がって、得意のポーズをとりました。
ガオー!
西の森全体に、重い金属的な音が二回、響き渡りました。
湖が見える小高い丘の、大きな木の根元に座るうさぎさんを、後ろから呼ぶ声がしました。うさぎさんが振り向くと、親友のくまさんの奥さんが、うつむいて立っていました。若い奥さんは黒い服を着ていました。
「西の森の様子を調べたのは、うさぎさんだと聞きました」
うさぎさんは、体が固まったように動けなくなりました。
「西の森の人間は鉄砲を持っていないから安全だと、あなたが村長さんに言ったのだそうですね。村長さんは、その話を聞いて、派遣隊を作って森に送ることを決めたのだとか」
「そ、それは……」
少し違います、と言おうとしたうさぎさんは、黒い服を着たきつねの村長さんがこちらに近づいてくるのに気が付きました。村長さんは大股でうさぎさんとくまの奥さんに歩み寄りました。
「どうして、もう少しきちんと調べてくれなかったのですか」
泣きながらうさぎさんに詰め寄るくまの奥さんを、きつねの村長さんが優しく止めました。
「このたびは、本当にお気の毒なことです。お辛いでしょうが、どうか、うさぎさんを責めないでやってください。彼も、できる限りのことをしてくれたのですが……」
きつねの村長さんはそこで言葉を切って、くまの奥さんの肩越しに、うさぎさんを鋭く見つめました。それから、優しい顔に戻って、再び口を開きました。
作品名:ウソップ物語:黙っていたうさぎ 作家名:弦巻 耀