ウソップ物語:黙っていたうさぎ
「その人間たちは、鉄砲を持っているか知ってる?」
小鳥さん達は、また口ぐちにさえずりました。
「畑を耕している人は持っていないみたいだよ」
「大きな男の人が持っているのを見たよ」
「三人連れで歩いていて、その中の一人が大きな鉄砲を担いでいるのを見たよ」
にぎやかな小鳥さんたちの話をまとめると、どうやら、西の森にいる人間のうち、5人に2人が鉄砲を持ち歩いているようでした。
うさぎさんは、小鳥さん達にお礼を言うと、いちもくさんに村に戻り、きつねの村長さんの家を訪ねました。
「西の森でも最近は人間が多いそうです。5人に2人くらいが鉄砲を持っているようです」
そうか……、ときつねの村長さんは難しい顔をして、しばらく考え込んでいました。やがて、きつね特有の切れ長の目を細めて、言いました。
「鉄砲を持っている人間が5人に2人、ということは、半分以下ということだね」
「はい」
「なら、危険な場所ではない、ということになるね」
「そ、そうですか?」
「危険な人間が全体の半分以下なんだ。たいしたことできない人間のほうが多いんだ。それはつまり、『安全』ということだろう?」
うさぎさんは、きつねの村長さんの言うことが、どうも腑に落ちませんでした。先の会合で話していた『安全』ってそういうことだったかなあ、と一人でぶつぶつ言っていると、村長さんは急に怖い顔をして、きっぱりと言いました。
「西の森は安全だ。報告ありがとう、うさぎさん」
「でも…」
困った顔で何か言おうとするうさぎさんを、きつねの村長さんは鋭く睨み付けました。
「細かいことにこだわって、いまさら『完璧に安全とは言い切れないから派遣隊は出せません』なんて言ったら、隣村との関係が悪くなって、食べ物を売ってもらえなくなる。そうなったらみんな困るんだよ。とにかく、君は今回の話を誰にもしてはいけない。もし喋ったら、一家そろってこの村を出て行ってもらう」
うさぎさんには、体の弱い両親の他、小さな弟妹もいました。これまで、うさぎさんの一家は、うさぎさんが生活に役立つ話をみんなに教え、みんなから食べ物を分けてもらう、という助け合いの中で、暮らしてきました。村を追われ、みんなと離れてしまったら、たぶん、家族そろって生き延びることはできないでしょう。
うさぎさんは、泣きそうな顔で、逃げるように家に帰っていきました。
作品名:ウソップ物語:黙っていたうさぎ 作家名:弦巻 耀