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熾(おき)
熾(おき)
novelistID. 55931
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月のあなた 上(4/5)

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 穂乃華は十五、六の少女のような目つきで見上げて訊いていた。
 だが相手は、髪を手放すと、淡々と事務的な口調で告げた。

「穂乃華。ニュースで見たとは思うが、大和のネットワークに入っていないだろうから云っておく。和家港のドローンを壊滅させたあれは、海外のマレウドだ。神霊クラスの可能性もある」

 穂乃華は相手の顔を不思議そうにじっと見て、やがて繕うように苦笑した。

「そうだよね。もう私には伝えられないことだ」
「ああ、もうお前は関係無いんだ。いつものように、家にいてくれ」

 穂乃華は更に衝撃を受けると、項垂れて一歩後ろに下がった。

「――そうだね。私が抜けてからも、戦ってたんだから。…ニュースのことも、ありがと。わかってたけど」

 だが顔を上げた時には、穂乃華は微笑んでいた。

「そっちの上司に言いたいことがあるから、退いてくれ」
「……」

 秀はその表情を見て、頷くと、静かに横にずれた。

 また二人の女は向かい合った。

 穂乃華の髪は、ただの紅い髪に戻っていた。

「もし、リクルートなんてしてみろ。あの白いドーナツを消し炭にしてやる」
「その発言、防止法に引っかかるわよ。聴かなかった事にするわ」

 穂乃華はきっかり三秒牡丹を睨みつけた後、

「食材が傷むから、行きます」

 自転車のハンドルを握り、方向転換させる。そしてフードを被り直すと、そのままこぎ去った。

 その背中を見送って、牡丹がため息を吐く。

「怒った顔、そっくり」

「学園長、いいですか」
「あなたも、いきなり仕事にもどるのね…なに?」
「国防から、新入生のデータに関して検証が甘くないか、という指摘が回って来ています」
「無視よ。万全を期してますと伝えといて。どうせ米国の骨董屋がつっついてきたんでしょうから」
「その発言こそ、危険だと思いますが」
「ふん。どーだっていいわ!」

 牡丹の口調が若いものにもどっていたが、秀は指摘しない。

「こどもたちは私たちで守る。そうでしょ? 戻りますよ」

「タクシーを掴まえましょう」
 秀は道路に向かって、右手を振り上げた。
 やがて停まった車は、小雨の中を穂乃華の自転車と逆方向に走っていった。