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熾(おき)
熾(おき)
novelistID. 55931
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月のあなた 上(2/5)

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「セイアツシマス」
 更に同様の鋼の弾を、二つ射出する。
 当然のことながら、木偶自身の身体に掴まっている自分には当たりようがない。
 黒い筒が回転し、小さな鋼の矢じりを無数に撃ち出す。
 それは恐ろしい速度で、地面を砕き、積み上げられていた鉄の箱に穴を穿っていった。
(ガン。)
 しかも故郷のものより遥かに強力だ。 

「…中のお前はこの国の精霊か。なぜ身を覆っている」
 しがみ付いたまま訊くが、答えは無い。
 やがて銃弾の振動で巻き上がって来た白い煙が、鼻先の部分まで巻き上がって来た。
「!」
 突然、鼻の奥に焼けた鉄を差しこまれたような刺激が襲った。
「ウオオオオ!」
 涙が止まらない。
 咄嗟に相手を蹴り飛ばして跳躍し、鋼の箱の重なりの上に着地した。
 だがそこへ、先ほどの鋼の霰が降り注ぐ――。

 必死に箱の上を飛び回って避けた。
 鉄弾を瞬く間に無数に撃ち出す筒は、確かに恐ろしい発明だ。
 だが一方で、自分は真理を知っている。
 あれが神属でないならば、無から有を創り出す事は出来ない。
(矢は撃てば尽きる。)
 そして理ことわりの通り、矢は尽きたのだった。木偶の両腕は、虚しく回転していた。鉄の木偶は、静かに背を向けてその場を離れようとする。
「させん」
 手を自らが出てきた鉄の箱に向け、ほかの砂を呼び寄せる。
 砂は、左手で弓の、右手で矢の形を取って収まった。
 矢を弓につがえ、呪しゅを唱える。

 そは強き弓
 鋭き矢
 かつて太陽の王の狩りを導き
 今ぞ聖戦士のともがらとなる
 我は光の矢
 犬にして不浄ならぬもの
 狼にして敬虔なる信徒なり
 
「死ね――」
 ひきしぼり、放つ。
 圧縮し金剛石の如くした矢は輝く軌跡を描き、難なく木偶の回転羽根と兜の接続部を食いちぎった。
 羽根はどこかへはじけ飛び、木偶は真っ逆様に地面に落ちる。
 落ちて数秒後に、大きな火花を散らせて爆発した。
「なぜそうも朽ち、尽きるもので文明を作ろうとするのか」
 そこへ、巨人の赤子が泣くような音が辺り一帯に響き渡った。
 鋼鉄の羽音が遠くからいくつも、そして様々な方向から集まってくるのが聴こえる。
「フン」
 積み重なった箱の上から遠く闇に沈む街を見渡せば、天を突くような塔が何本も黒い影となって立ち並び、無数の宝石のような明かりがその中から零れている。
 その下にも、やはり無数の光を灯す四角い城壁が横たわる。

 その一つ一つの光の下に、機械に支配された、不浄の生活がある。
「この港の一帯は、だめだな…」
 砂が生き物のように彼へと帰ってくる。再びそれは矢となって手に納まった。
「もう少し奥に行こう…穢れ無き、清水の湧き出でる土地へ…其処のものならば、きっと村を癒せる。――場所は道々、獣どもに聞けばいいだろう」
 言いながら、頭のどこかで声が聞こえる。
 だが、その土地はどうなる?
 要かなめを失った土地は、地脈のバランスを崩して大きな災に見舞われる。
 そんなことは、お前が一番よく知っているのではないか。

「……」
 近づいてきた羽音がいくつも重なって、彼の前には三機のドローンが滞空していた。
「この国の民がどうなろうが、知ったことか」
 彼は弓を引き絞る。