小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
熾(おき)
熾(おき)
novelistID. 55931
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

月のあなた 上(1/5)

INDEX|9ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

消え行く妹



 二人が出会う少し前、祇居がバスで代表挨拶の原稿を見直していた時。

 窓側の席に座っていた凛は、ひたすら窓に張り付いていた。
 そして兄よりも先に、あの奇想天外な校舎に驚いた。
 凛は完全に言葉を失い、音も忘れていた。

「降りるよ」

 祇居が声を掛けたのはその時だった。
 凛は桜のプロムナードの先にある白い塔に見とれたままだった。
 バスが動き出してやっと、後ろに誰もいない事に気付く。

「しーちゃん…?」

 流れていく風景の隅に、門の前で立ち尽くす祇居が居た。
 凛は咄嗟にバスの後部座席へと走って行った。
 そして必死に叫ぶ。
 祇居は気づいた様だったが、追って来るその姿は遠ざかり、何秒もしない内に坂の向こうに消えた。

 そしてしばらくして、それは来た。

 とくん――

 一際大きく胸の奥から震動が響いて来たかとおもうと、細く高い音が頭の内側に響いて、やがて大きくなって何も聞こえなくなる。
 視界に映るあらゆるものが、電波の妨害されたテレビの様にブレ始める。 
 腕が透けて、向こうが見える。
 体中から力が抜ける。

「しいちゃん」
 凛はバスの床に蹲り、誰にも気づかれないまま消えようとしていた。


作品名:月のあなた 上(1/5) 作家名:熾(おき)