小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
熾(おき)
熾(おき)
novelistID. 55931
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

月のあなた 上(1/5)

INDEX|11ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

「ぃや」

 耳を聾するほどのクラクションを鳴らしながら、バスの巨体がその子に迫っていた。
 悲鳴のようなブレーキ音が商店街に響きわたる。
 日向は思わず目を閉じる。

 静寂があった。
 
 やがて通行人のどよめく声が聞こえて来、クラクションの音が再び怒ったように二回、三回鳴らされた。

「ドアを開けてください!」

 それは確かに、さっき聞いたばかりの声だった。
 日向は目を開いた。
 バスとその子の胸の間には、数十センチほどしかなかった。

 祇居は、もう一度良く通る声で言った。

「ドアを開けてください!」

 日向もまた立ち上がり、昇降ドアに駆け寄って叫んだ。

「開けて! 中に病人がいるんです!」

 中の運転手は日向の顔を振り返り、そしてもう一度正面の祇居の顔を見る。
 そして、二人の真剣さに気圧されて、ドアの開閉ボタンを押した。

「ありがとう」

 祇居は云うと素早くドア側に回って、日向を少し押しのける形でバスの中に入った。

 日向は心配になりながら開いたドアを見上げていたが、やがて祇居は、白い和服を着た女の子を抱きかかえて戻って来た。
 女の子は目を閉じぐったりしていたが、少しだけ身体を動かせていた。

「無事です」

 祇居が、歯を食いしばる様な表情で言った。

「やった! 運転手さん、ありがとうございました!」
 日向が勢いよく頭を下げると、
「……」
 運転手は、この上も無く不気味そうに顔を歪めて見返した。

 バスの中では、何やら不穏なざわめきが起こっている。

「つきあってられるか」

 運転手は首を振ると、苦い表情のまま無言でドアを閉め、バスを出発させた。


作品名:月のあなた 上(1/5) 作家名:熾(おき)