レイドリフト・ドラゴンメイド 第1話 戦傷兵の見た青空
応隆のパワードスーツが、装甲を開いて装着者を迎え入れる。
多くのモーターやアクチュエーターが、高性能なコンピュータによって制御された動きだと、チェ連人は思った。
チェ連では、緊急時には人の手で兵器を修理する。という設計思想から、すべての装備が大変シンプルだ。
護衛兵が着る軍服は、防寒や動きやすさを優先されて作られている。
かつて、銃弾から身を守る鉄製のベストが作られたことがあるが、重すぎるという理由ですぐにすたれてしまった。
コンボイが再び走り出した。
その前を膝とくるぶしから合計4つのタイヤを出し、膝立ちの姿勢になったドラゴンドレスが走る。
青空の中で一瞬光が瞬いた。
その光はすぐに消えてしまった。
輸送車内からその光は見えなかったが、すぐに通信機から報告が流れた。
「敵の宇宙戦艦が、生徒会のお迎えによって破壊されました! 」
その喜びが、車内を駆け抜けた。
生徒会を迎えにきた者たちは、生徒会以上の異能力を使う。
世界を覆った灰色の空を、晴らしたのも彼らだ。
チェ連兵の全身に喜びが満ち溢れる。
もろ手を挙げた笑う者。むせび泣くもの。隣の友とグータッチするもの。
だが、そこにいる将校たちの存在に気付き、すぐに無礼を謝った。
とがめはなかった。
忌まわしい敵が、無様に負ける。
その痛快さは、何事にも代えられないと、分かっているからだ。
それでも、エピコスは熟考を止めず、一瞬のすきを見逃さないつもりだった。
あの吹雪の日、真脇 達美から感じた威圧感を、エピコスは思い出した。
彼ら生徒会がやっていたのは、餌付けと同じだ。
宇宙帝国とチェ連を見比べたとき、チェ連の方が余力があった。
だから、宇宙帝国の要人を捕虜として渡したのだ。
しょせんチェ連が今やっている輸送は、面目をつぶさない程度に用意された仕事。
子供のつかいに等しい。
この程度なら問題ないだろうと、地球人は判断したという事だ。
それだけではなく、地球人に力を貸す、さらに強力な何者か達も……。
チェ連では地球に太刀打ちできない今、歴史は強者が作るというこの星で何度も行われたことが再現されたら、今度こそスイッチアは征服されてしまう……!
エピコス師団長とイストリア書記長は、お互いの目に国の権利が奪われるという危機感を見て取った。
コンボイは山を登っていく。
高度があがると、黒い雪に変わり白い雪があたりを覆う。
ついに、戦争の煙が上ってこない高度まで来たのだ。
道路はきちんと除雪されており、山側はまっすぐな白雪の壁、谷側は奈落に続いている。
このまま山脈を超えれば、ヤンフス大陸最大の、乾いた高原地帯がある。
来訪者が降り立ったのは、その高原地帯だ。
そしてそこは、エピコスの生まれ故郷でもある。
来訪者は、そこで何をするつもりなのか、事前に知らせてきていた。
そしてこの星、惑星スイッチアへやって来た理由も。
その話は、にわかには信じられないことだった。
何しろ、師団長にしろ、書記長にしろ、何も知らないのと同じだったからだ。
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第1話 戦傷兵の見た青空 作家名:リューガ