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レイドリフト・ドラゴンメイド 第1話 戦傷兵の見た青空

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青い空。
 時間は正午過ぎ。天の頂点からわずかに南に傾いたところに、黄色い太陽が輝く。
 その太陽に近づく、巨大な山脈。
 そこから空を見ると、空の青さは山の下よりさらに濃く鮮やかに感じるだろう。
 空気に微粒子がなく、日光が拡散しないためだ。
 この空が、ほんの一週間前まで、分厚い灰色の雲で覆われていた。

 ここは地球によく似た惑星スイッチア。
 1年半前、この星を侵略した異星人、ペースト星人が次元湾曲兵器を発射した。
 弾頭は、小型のブラックホール。
 いかなる物質も破砕して飲み込む、超重力兵器。
 目標は、巨大火山。
 地下に1,000立方キロのマグマを蓄えていた。
 地球では北アメリカにある、イエローストーン火山と同じクラスのスーパーボルケーノ。
 噴出した火山灰や土砂は、3週間で約600万平方キロを埋めた。
 これは日本の国土、約38万平方キロの約16倍にあたる。
 アメリカ合衆国の国土、約960万平方キロでさえ3分の2だ。

 噴火と同時に何億トンもの二酸化流黄ガスが空に放たれ、硫酸水滴の雲となった。
 硫酸水滴の雲は、成層圏エーロゾルとも呼ばれる。
 二酸化流黄が、成層圏で水の雲と反応することで生まれる。
 この雲は1年から2年は上空にとどまる。
 それはスイッチアの空を覆い尽くし、太陽光線を反射した。
 惑星全体で平均1度の気候寒冷化が起こった。
 1度の気候変動は恐ろしい。
 起こるべき気候が起こらない世界は、たちまち夏の来ない1年、記録的降雪となった。

 山脈には天然杉の巨木。その残骸が並んでいる。
 成層圏エーロゾルから生まれた、強力な酸性雨による影響だ。
 葉が落ち、枝は折れ、幹も裂けている。
 変わり果てた樹形は、人を寄せ付けない怪物の牙か爪のように並んでいた。

 噴火が続く限り、2年は太陽の光は届かない。
 人々はその未来に絶望した。

 ところが、たった2日前に、成層圏エーロゾルは消え去った。

 山肌が複雑に波打っている。
 細い2車線とはいえ、この山に舗装された道があることは。そして今、何台もの車が並んで走っていることは、人々にその難工事ぶりを考えさせるだろう。
 だが本当の難所は、そのさらに道の先にある。
 山頂を覆う雪。その雪は、一か所の白さもなく、黒く汚れていた。
 これもまた、何十億トンもの大気汚染物質が実在したあかしだ。
 
 道を2車線一杯に占領しながら、重苦しいディーゼルエンジンを響かせて兵員輸送車が走る。
 6輪駆動に菱型の装甲をのせ、さらに機関砲のついた砲塔を構えている。
 それが何台も、つらなって走る。
 先頭を走る2台の車の前部には、ブルドーザーのような巨大なブレードがついている。
 さらに後ろからは、人間の腕に似た巨大な機械の腕を持つ、双腕重機が追う。
 ともにベースは輸送車を改造したものだ。
 道をふさぐさまざまな障害。手入れされることもなく崩れた土砂や、倒れた木々。
 そんな障害を押しのけ、山の向こうを目指す、長大なコンボイ。
 なかには完全武装の兵士。
 そして彼らがまもる、重要人物たちを乗せている。

 輸送車の中には、10人の兵士が向かい合って座るための、うすいクッションのイスしかない。
 周りは360度、鋼鉄の箱だ。小さな四角い防弾ガラスの窓が、間をあけて並んでいる。
 そんな窓からの光では、車の中も薄暗い。
 コンボイの中ほどの車中では、10席のうち8つに、兵士たちが座る。
 身につけているのは、じょうぶなウールデニムの軍服と、防寒用で牛革のベスト。
 大ぶりな自動小銃や、それぞれの役割に応じた装備を持っている。
 もう2つのイスには、しっかりと防水加工された灰色のトレンチコートを着て、大きな耳あてのついた帽子をかぶった将校がいた。
 胸にいくつもついた勲章が、二人のそれまでの戦いを物語る。
 そして腰に下げたピストルが、磨き上げられた茶色い皮のホルダーに収まっていた。
 
「エピコス師団長! 空に関する報告が届きました! 」
 背中に大きな無線機を背負った通信兵が報告した。
 エピコス師団長と呼び掛けられた将校は、ナイフのような鋭い目を向け、「ご苦労」と労った。
 その青い目は、これまで幾多の敵の死を見てきた。
 そして、自分ではどうしようもないもない運命も。
 帽子の下からはサラサラしそうな金色の髪が少しだけ覗いている。
 白い肌にはしわが刻まれ、その下には分厚い筋肉がある。
 若いころはさぞ目を見張るような美青年だったであろう、壮年の男だ。

 通信兵が差し出す受話器から、初老の男性らしき声がする。
『エピコス師団長! こちらはヤンフス大学気象学部の、カーゴ・カイモノブクロン教授であります。
 本日は、ご利用いただき、ありがとうございます』

 エピコス、ヴラフォス・エピコス中将。
 この星、スイッチア星には一つの大陸しかない。
 北極圏から赤道を越え、南半球の半分まで。東西では、この惑星の3分の1を占める。超大陸ヤンフス大陸。
 その大陸を収める覇権国家が、チェルピェーニェ共和国連邦。略してチェ連。
 エピコスはチェ連の領土である高山地帯や北極などでの戦闘を主にする、極限地師団の指令だ。

 そしてカーゴ教授の対応は、兵士たちにとって当たり前のことだ。
 国民は、国を守るために政府にあらゆる協力を惜しんではならないとされている。
 教授の説明は続く。
『各地からの報告によりますと、スイッチアの空を覆っていた成層圏エーロゾルは、完全に消え去っているとのことです!
 また、ペースト星人による火山活動も、完全に収束しました』
 カーゴ教授は、その後、言葉を詰まらせた。
 無理もない、と師団長は思った。
 自分たちの星から戦乱を取り除いた者達。
 彼らから与えられた情報が、あまりに複雑で、怪奇だからだ。
 彼らは、自分たちは地球からスイッチアに召喚されたという、人間と同じ姿をしながら人にあらざる能力を使う、異能力者達だった。
 かれらは魔術学園高等部の生徒会を名乗った。
『現在の空に、偽装や新たな化学物質の影響はありません。
 本物の青空であると断言できます。
 これは、女神ボルケーナによる、特定の元素を異世界に送り込む能力と、火山をコントロールする能力を、裏付けるものだと考えます』

 女神ボルケーナは、魔術学園生徒会の一人の、後見人に当たる。
 エピコス達には、それがどんな姿を持っているか、なぜ女神と呼ばれているかは知らなかった。

 安全だと言われてもエピコスには、この急激な変化を敵からの攻撃だと言われた方が、しっくりくるような気がした。
「ちなみに教授、空が青いのは何故ですか? また、夕日や朝日が赤い理屈は?」
 エピコスからの、とっさに出た質問に対し、教授も周囲も一瞬沈黙する。
 エピコス自身、これはバカなことを聴いたかもしれないと思った。

 教授は吹き出すこともなく、淡々と説明を始めた。
『昼間の空が青い原因、そして朝と夕方の空が赤い原因について、ですね。 
 太陽光線は7色の可視光線を持っています。