The SevenDays-War(黒)
「そうして、ルドラは三日三晩の間、戦いを続けた」
キャスは姿勢を崩すことなく話し続けていた。
「うむ。その日のことはよく覚えておる」
「四日目の朝、押し寄せ続ける刺客たちを前に、ついに限界を迎えたルドラは、北東の森にあるミンミ修道院に封印された。契約に護られているルドラには、やはりトドメを差すことができなかったのでしょうね」
「・・・・・・」
大司教は黙ったまま豊かな白い顎鬚をしごく。
「本来の黒炎の騎士とは、世界の秩序を乱す神の敵を討つ神の剣。神とは統治神ではなく創造神。摂理を捻じ曲げて支配する者こそが神の敵」
「じゃから、ルドラは真の黒炎の騎士であったと言うんじゃな?」
「ルドラは神の剣として神の敵を討とうとした。真の神の敵とは、統治神パ――」
「止めよ、キャス。その名を口にしてはならぬ」
「聖教会は一神教。世界を創造した神と世界を統治している神が別々に存在していたら、聖教会そのものが根底から覆されてしまうものね」
「そうなれば、エルセントという国は崩壊してしまうじゃろう」
「だからといって、真実を隠していいという道理にはならないわ。おじいちゃん、あたしはね、国中に真実を公表しようなんて思っていないわ。おじいちゃんの言った通り、人は強くないもの」
大司教は目を閉じ、深いため息と共に、背もたれに身を沈めた。
扉を叩く音が控え目に響く。
「大司教様、お時間になっておりますが」
扉の向こうから呼ぶ声に、いまが早朝であることを思い出す。
「おぉ、すまんすまん。つい話し込んでしまった」
大司教は扉の向こうに声を掛け、暗に終わりを告げる。
了承した証として、キャスも目を閉じて背もたれに身を沈めた。
「ご覧通り、ワシも忙しい身じゃ。夕刻にもなれば時間も空こう。ナインにはそのときにワシから話そう」
大司教は、のそのそと歩いて執務室を後にする。
その背中を見送ったキャスは、窓から見える空に視線を飛ばした。
「ルドラ……貴方が何を伝えようとしたのか、あたしに何をさせようとしているのか、いまはまだ分からない。けど、あたしはあたしが正しいと思うことをやるから」
千年の記憶を継承した少女、ミース・T・キャロライナ。
その胸中を窺い知ることは、誰にもできないのだ。
― The SevenDays-War 黒炎の騎士 了 ―
キャスは姿勢を崩すことなく話し続けていた。
「うむ。その日のことはよく覚えておる」
「四日目の朝、押し寄せ続ける刺客たちを前に、ついに限界を迎えたルドラは、北東の森にあるミンミ修道院に封印された。契約に護られているルドラには、やはりトドメを差すことができなかったのでしょうね」
「・・・・・・」
大司教は黙ったまま豊かな白い顎鬚をしごく。
「本来の黒炎の騎士とは、世界の秩序を乱す神の敵を討つ神の剣。神とは統治神ではなく創造神。摂理を捻じ曲げて支配する者こそが神の敵」
「じゃから、ルドラは真の黒炎の騎士であったと言うんじゃな?」
「ルドラは神の剣として神の敵を討とうとした。真の神の敵とは、統治神パ――」
「止めよ、キャス。その名を口にしてはならぬ」
「聖教会は一神教。世界を創造した神と世界を統治している神が別々に存在していたら、聖教会そのものが根底から覆されてしまうものね」
「そうなれば、エルセントという国は崩壊してしまうじゃろう」
「だからといって、真実を隠していいという道理にはならないわ。おじいちゃん、あたしはね、国中に真実を公表しようなんて思っていないわ。おじいちゃんの言った通り、人は強くないもの」
大司教は目を閉じ、深いため息と共に、背もたれに身を沈めた。
扉を叩く音が控え目に響く。
「大司教様、お時間になっておりますが」
扉の向こうから呼ぶ声に、いまが早朝であることを思い出す。
「おぉ、すまんすまん。つい話し込んでしまった」
大司教は扉の向こうに声を掛け、暗に終わりを告げる。
了承した証として、キャスも目を閉じて背もたれに身を沈めた。
「ご覧通り、ワシも忙しい身じゃ。夕刻にもなれば時間も空こう。ナインにはそのときにワシから話そう」
大司教は、のそのそと歩いて執務室を後にする。
その背中を見送ったキャスは、窓から見える空に視線を飛ばした。
「ルドラ……貴方が何を伝えようとしたのか、あたしに何をさせようとしているのか、いまはまだ分からない。けど、あたしはあたしが正しいと思うことをやるから」
千年の記憶を継承した少女、ミース・T・キャロライナ。
その胸中を窺い知ることは、誰にもできないのだ。
― The SevenDays-War 黒炎の騎士 了 ―
作品名:The SevenDays-War(黒) 作家名:村崎右近