ハヤト
交渉先で喧嘩になる事もありました。
人と人がビジネスで繋がっているとおのずと汚いものがつきまとってくる。でも私達はその下水道作業の様な汚いものを元々当たり前にもった様に、我慢できました。
汚いものがもともと私達の中にあったのかもしれません。
ハヤトはあるベルギーのビールを扱う会社の社長と親密な関係でした。輸入の時の信用状も回転信用状Revoling L/Cという取引が継続しないと扱わない信用状を発行していました。その親密な関係もつかの間、彼が、
「また、ディスクレがあった。ケーブル・ネゴで発行銀行に対して今回も承諾を依頼する。これで3度目だ」
事態はそれだけで済みませんでした。
「契約が切れたから、CIPからDDPに契約を変更するってよ。あんなディスクレの多い会社とDDPで手を結べるか。もうあいつとはこれっきりだ」
そうして彼はその親密だった社長と完全に縁を切ってしまいました。
「信じる事は大切だよ。人と繋がるためにね。でもその絆が一夜にして全く何もかも壊れてしまう事もあるんだよ。金の切れ目が縁の切れ目っていうのかね。信じる事も本音のコミュニケーションもビジネスには絶対大切だ。でもその裏のからくりを分かっていないといけないというのも絶対必要条件だ」
彼のビジネスは順調でした。恐ろしい位順調でした。
お金もUSドルで10万ドルくらい稼ぎました。
私達はシンガポールのプールのあるホテルでシャンパンを飲みました。
彼がシャンパンを片手に、
「馬鹿な奴は要するに馬鹿なんだよ。とことん馬鹿を見ればいいんだよ。世の中実力社会だね。自由競争だね。
金を稼いで何が悪い。出来る事はとことんするんだよ。とことんな。みろ。この20万のシャンパン。プールから見るナイトビュー。ちょろいもんだよ。最高だよ。金を稼ぐってものは努力でもない。経験でもない。それは何か―――
才能だよ
金を稼ぐための才能だよ」
私はその刹那、彼にキスをしました。
どういう訳か悲しい味がしました。
何かとてつもなく悲しい味がしました。