ゴキブリ勇者・クラウン商会編
クラウン商会は宗教団体ではない。
しかし、確実に宗教色は帯びていた。
人の心を操り収益をあげ、カルト集団と呼ばれるボランティア団体。
俺はそのトップを敬愛していた。
彼に任せておけば、俺たちの幸福は約束される。
俺は彼の命令で、雑誌記者と身分を偽りながら各地を転々とした。
この仕事に疑問を感じたことはないかと、聞かれることもあった。
だが、それはバカな質問だ。
俺はクラウン商会の人間だからこそ、俺なのだ。
クラウン商会でない俺はあり得ない。
クラウン商会の人間であることが、当たり前なのだ。
そんな俺にも、クラウン商会の懐の深さに気づいていなかった時期がある。
しかし、婚約していた恋人に裏切られ、全てに絶望した俺を救ってくれたのがクラウン商会だった。
クラウン商会は俺の元婚約者に復讐する機会を与えてくれた。
俺はアイツに考えられるだけの苦痛を味わわせてやった。
腕はだらりとぶら下がり、血まみれの顔を俺に向けて、アイツは俺に許してくれと言い続けた。
アイツの顔を思い出すだけで、俺は今でも顔がにやけてしまう。
こんなに幸せをもたらしてくれたクラウン商会を離れる理由はなかった。
しかし、一つだけ気になることもある。
あのときの様子を、クラウン商会は記録していたらしい。
ビデオカメラという聞きなれない道具は、映像を保存できるらしかった。
そんなことをされなくても、俺はクラウン商会を離れたりはしない。
こんなに楽しくて充実した毎日を送れる組織はないだろう。
俺は日々心踊らせて生きていた。
「こんにちは。今日もサイトウ様へ謁見のご予約ですか?」
「ええ、お願いしまーす」
クラウン商会は、名字という名前の制度を取り入れていた。
階級ごとに名字は決まり、サイトウはこの組織のトップの名前だった。
俺は暇さえあれば飽きもせず、サイトウ様への謁見を頼んでいた。
「あれ、どうにかならないんですか?
謁見だなんて仰々しい言葉、サイトウ様もお嫌いでしょ?」
サイトウ様は柔らかい顔で笑い、俺に指で指示をした。
俺はその通りにひざまずく。
「そうですね、お前の言う通りです。
この組織はまだまだ変えなければいけないところばかりだ」
「サイトウ様も大変ですねー。俺もなんかしら手伝いますよ?
俺はサイトウ様の言うことならなんでも聞きますから」
「ふふふ、ありがとう。お前には世話になってばかりだな」
「いえいえ。サイトウ様が笑ってくれるなら、俺も満足です」
サイトウ様はゆるりと歩いて、俺のそばへやってきた。
そして、俺の耳元でポソリと言った。
「お前に、サイトウの名を譲ろうと思う」
俺は耳を疑った。
「いや、そんな。いくらなんでもそれはないでしょー。
俺なんてまだタカノですよ?
そこ飛び級しちゃっていいんですか?」
「構わないよ。お前さえよければね」
サイトウ様は整った顔でふわりと笑った。
この部屋はいつも現実離れしていて、俺はここにいると段々と酔っていってしまう。
微かなめまいを追い払い、俺は頭を下げた。
「じゃー引き受けます。具体的になにをしたらいいのですか?」
「ただここに居ればいいのですよ。
そして皆に愛と幸福を与えなさい。
アナタにはその素質がある」
「いやー身に余る光栄ですね。頑張りまっす」
サイトウ様はサラサラと流れるように微笑み、俺の前から姿を消した。
今日から俺がこの組織のトップか。
まだ現実味がわかなかったが、俺は部下に着替えを手伝われ、あの椅子に座った。
金の壁に漆黒のラインが躍り、赤く輝くなにかの模型がゆらゆら揺れていた。
俺はずっとここにいることになるのだろうか。
めまいが段々強くなって、俺はふっと目を閉じた。
何かの甘い香りだけが、部屋を包んでいた。
しかし、確実に宗教色は帯びていた。
人の心を操り収益をあげ、カルト集団と呼ばれるボランティア団体。
俺はそのトップを敬愛していた。
彼に任せておけば、俺たちの幸福は約束される。
俺は彼の命令で、雑誌記者と身分を偽りながら各地を転々とした。
この仕事に疑問を感じたことはないかと、聞かれることもあった。
だが、それはバカな質問だ。
俺はクラウン商会の人間だからこそ、俺なのだ。
クラウン商会でない俺はあり得ない。
クラウン商会の人間であることが、当たり前なのだ。
そんな俺にも、クラウン商会の懐の深さに気づいていなかった時期がある。
しかし、婚約していた恋人に裏切られ、全てに絶望した俺を救ってくれたのがクラウン商会だった。
クラウン商会は俺の元婚約者に復讐する機会を与えてくれた。
俺はアイツに考えられるだけの苦痛を味わわせてやった。
腕はだらりとぶら下がり、血まみれの顔を俺に向けて、アイツは俺に許してくれと言い続けた。
アイツの顔を思い出すだけで、俺は今でも顔がにやけてしまう。
こんなに幸せをもたらしてくれたクラウン商会を離れる理由はなかった。
しかし、一つだけ気になることもある。
あのときの様子を、クラウン商会は記録していたらしい。
ビデオカメラという聞きなれない道具は、映像を保存できるらしかった。
そんなことをされなくても、俺はクラウン商会を離れたりはしない。
こんなに楽しくて充実した毎日を送れる組織はないだろう。
俺は日々心踊らせて生きていた。
「こんにちは。今日もサイトウ様へ謁見のご予約ですか?」
「ええ、お願いしまーす」
クラウン商会は、名字という名前の制度を取り入れていた。
階級ごとに名字は決まり、サイトウはこの組織のトップの名前だった。
俺は暇さえあれば飽きもせず、サイトウ様への謁見を頼んでいた。
「あれ、どうにかならないんですか?
謁見だなんて仰々しい言葉、サイトウ様もお嫌いでしょ?」
サイトウ様は柔らかい顔で笑い、俺に指で指示をした。
俺はその通りにひざまずく。
「そうですね、お前の言う通りです。
この組織はまだまだ変えなければいけないところばかりだ」
「サイトウ様も大変ですねー。俺もなんかしら手伝いますよ?
俺はサイトウ様の言うことならなんでも聞きますから」
「ふふふ、ありがとう。お前には世話になってばかりだな」
「いえいえ。サイトウ様が笑ってくれるなら、俺も満足です」
サイトウ様はゆるりと歩いて、俺のそばへやってきた。
そして、俺の耳元でポソリと言った。
「お前に、サイトウの名を譲ろうと思う」
俺は耳を疑った。
「いや、そんな。いくらなんでもそれはないでしょー。
俺なんてまだタカノですよ?
そこ飛び級しちゃっていいんですか?」
「構わないよ。お前さえよければね」
サイトウ様は整った顔でふわりと笑った。
この部屋はいつも現実離れしていて、俺はここにいると段々と酔っていってしまう。
微かなめまいを追い払い、俺は頭を下げた。
「じゃー引き受けます。具体的になにをしたらいいのですか?」
「ただここに居ればいいのですよ。
そして皆に愛と幸福を与えなさい。
アナタにはその素質がある」
「いやー身に余る光栄ですね。頑張りまっす」
サイトウ様はサラサラと流れるように微笑み、俺の前から姿を消した。
今日から俺がこの組織のトップか。
まだ現実味がわかなかったが、俺は部下に着替えを手伝われ、あの椅子に座った。
金の壁に漆黒のラインが躍り、赤く輝くなにかの模型がゆらゆら揺れていた。
俺はずっとここにいることになるのだろうか。
めまいが段々強くなって、俺はふっと目を閉じた。
何かの甘い香りだけが、部屋を包んでいた。
作品名:ゴキブリ勇者・クラウン商会編 作家名:オータ