Scramble Egg 1
半ば叫びつつ、部屋を探し回った。もし、自分の知らない間に外に出てひと目に触れていたとしたら。不安はどんどん大きくなっていく。
家中を探し回り、それでもいないことを確認すると靴を履いて外へ飛び出した。が、すぐに引き返す。もう一箇所見てない場所があった。
純一は急いでその場所へと向かう。ドアを開け、浴槽を見た。ら
「ふ〜んふんふん〜♪」
気持ちよさそうに仰向けで水に浮いている生き物が。
「ゴマ・・・」
向こうも気づいたようだ。
「ん?じゅん、お帰り。」
こちらの心配を余所にあっけらかんとそういうゴマの姿を見て、純一もつい爆発してしまった。
「バカ野郎!」
突然怒鳴り出す純一に、ゴマは驚いてあたふたしだす。
「え!?じゅん、何いきなり怒り出してんのさ?オイラ今日はいたずらしてないぞ?」
続けて怒鳴ろうとする純一は、その言葉にはたと我に返る。
確かに、ゴマは湯船に浮かんでいただけだ。ここでの生活も二ヶ月ぐらい経とうとしている。
ゴマもここでの生活に慣れたのか、両親がいない時を見計らって、こうやって気ままに過ごすようになった。今回はただ自分がナーバスになりすぎて一人で騒いでいただけに過ぎない。さっきまでの自分の状態を思い出しものすごい羞恥心に駆られる。
「悪い、ゴマ。」
ゴマはそんな様子の純一を見て、ニヤ〜と笑う。
「あれ〜、もしかしてじゅん。オイラがどこにもいなかったから寂しかったんだ?」
図星。
「ばッ、バカ!んなわけ無いだろ!」
「いいっていいって、気にすんなよ。」
「いや、俺は何も気にしてないっての!」
やれやれ。謝ろうと思っていた純一は、ゴマが茶化したせいで謝罪のタイミングを逸してしまった。
「にしてもお前、いつの間に湯船に水溜めること覚えたんだ?」
「じゅんがあれから水を出してるのを見たから、あれでここに水を溜めようと思ったんだ。どう、すごいだろ?」
毎度おなじみのドヤ顔。正直見飽きた。
「あー、はいはいすごいすごい。ちゃんと水抜いとけよ。」
「はーい。」
純一は軽くため息をついて風呂場を後にした。
そして数分後、ゴマがタオルで体を拭き拭き出てきた。
「ん?どうしたのじゅん。そんな難しい顔してさ。」
「え?いや、なんでもない。」
「なにさ。言いたいことがあるならはっきり言えよ。そっちのほうがすっきりするぞ?」
本当に正直な奴である。多分ゴマの辞書に「躊躇」の文字はないのだろう。
それは呆れると同時にうらやましくもある。
「お前なあ。言わない方がいい事だってあるんだぞ?」
「え?そうかな?でも、じゅんが言うならその通りなのかもな。」
その返事に苦笑しながらも、純一は最近大きくなった疑問を繰り返す。
ゴマは一体何者なんだろう。
これまでに幾度となく考えてきた。だが当然答えなど出てこなかった。以前はそれで終わっていたが、楽しい日々が続くにつれ疑問が不安となり大きくなっていったのだ。
何が不安なのかと問われても、はっきりと答えることはできないが、それでも不安だった。それに純粋にゴマのことを知りたいという気持ちも大きくなっていた。
だが、当の本人は知らないの一点張り(最も、話さないのではなく本当に知らないようなのだが)で、ゴマのことについて分かることは何一つない。
ゴマの仲間は一体どんなところで生活を送っているのか。やはりごま(もしくはそれに類する食べもの)が主食なのだろうか。
純一は、そこまで知的好奇心が旺盛ではないが、自分だけの身近な問題として、やはり気になった。
すると、ゴマが突然耳を逆立てた。
「どうした?ゴマ。」
「なんか、聞こえない?」
その言葉に純一も耳を澄ませる。だが何も聞こえてこなかった。
「いや、何も聞こえないけど。」
純一はそう言ったが、ゴマは警戒を解かない。
「いる。何かがここに来てる・・・!」
「何かがって、何がここに来てるんだ?」
突然、ゴマは走り出した。
「! ゴマ!どうした!?」
慌てて後を追う純一。ゴマは玄関の扉を開け、外に飛び出した。その瞬間、ゴマの姿が忽然と消えた。
「!! ゴマ!!!」
純一も急いで靴を履き、玄関から飛び出した。そして一歩外に踏み出したその瞬間。
「――――あれっ?」
そこにあるはずの地面がない。そんな馬鹿な。目には見えているのに、足がそれを踏むことができない。
どうしてだ?と考える間もなかった。
純一はそのまま見えない穴の中へと落ちていった。
―続く―
作品名:Scramble Egg 1 作家名:平内 丈