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フラメント
フラメント
novelistID. 55928
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短編集 1

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ブラックブック



その日はいつもどおり図書館へ立ち寄った。
はずだった。
そこで本を借り読み始めた。
はずだった。
それが僕の日課。
のはずだった。

混沌とした記憶?の闇の中、ぼんやりと虚ろげな情景は語る。
たぶん僕の左の瞳とみてとれるものは、それを見つけていた。
そして僕の左手がその豪華に黒光りする装丁を引きずり出したかのように見える。
それは実に立派な背表紙で、僕の臭覚は新しい書籍の香りにうずいていたはずだ。
細かい事は靄の中でよく見えない。
きっと?手にして抱えて慌てて座り込んだのだろう。
期待にときめき興奮し震えながら開いたのだろう。
あのときのようにそれは、白紙に見える。
いや、さいしょだけはくしであのあとからは。

気が付くと意識がなかったようだ。
確かにいつもどおり…。
いつもどおり?靄がかかたままの頭を振り僕は、目の前のてにした本を見る。
見た事もない本だ。
題名すらないデザインが実に豪華で。
期待に胸を震わせて震える手で開いてみる。
真新しい本独特の紙の香りが鼻梁をくすぐる。
喰いいるように話を読み始める。
時を忘れたかのように熱心に。
いや時に忘れられてしまったのかもしれない。
それは、妙に覚えの或る孤独な少年の話だった。

友達すらいない少年は来る日も来る日も本ばかり明け暮れて過ごす。
やがてそのまま孤独に人嫌いに成長し、本を扱う店にと勤めだす。
慣れない接客などしないで整理や運搬と本に触れるだけの生活を繰り返す。
もの寂しいアパートへ戻っても詰まれた本に埋まりながらページをめくるだけ。
そのまま歳をとり平凡?なはずの一生を終えようとする。
そんな内容だ。

ありふれてる。
まるで…。
まるでなんだ?靄が濃くなってゆく。
記憶が混濁してしまったかのようだ。
書かれていた一生。
平凡?いや変わり者の一生だ。

つまらない人生だ。
最後にこんな夢のない話を読み終わるなんて。
本当につまらない一生だった。
豪華な装丁に騙されたようなものだ。
こんな黒い本もう読んだりは…。
そのまま倒れこんだ初老の男の足元には、もの寂しさをますだけの豪華な黒い本だけが置かれていた。




作品名:短編集 1 作家名:フラメント