はじまりの旅
大爆笑してひいひいと喘ぐティアにニタ達は拍子抜けした。
「そもそも私は悪魔としては半人前だし、契約ってのは悪魔に処女を捧げることよ。こんなうぶなクグレックにはまだ早いでしょ?」
クグレックは処女の意味が分からず、ニタに意味を求めるように視線を遣ったが、ニタは少々呆れた様子で「…ククはまだ知らなくていいよ。」とだけ呟いた。
「それに、クグレックはポテンシャルは高いわ。まだまだ悪魔の力を借りずとも、なんとかなると思う。もうちょっと魔女の本質が分かってくれば、もっと魔力を操ることが出来るようになるわ。」
そう言って、ティアはクグレックの頭をよしよしと撫でた。クグレックは、少々不安を感じていたが、撫でられたことで安心し、不安が解消されていくようだった。そして安心しきったクグレックは思わずつぶやいた。
「ティアの魔力、おばあちゃんみたいだった。」
「おばあちゃん?」
ティアが聞き返す。
「エレンって言うんだよ。もう死んじゃったけど。めちゃくちゃ優しい魔女だったんだよ。」
ニタが代わりに答えた。
「エレン?」
ティアがクグレックの祖母の名を繰り返す。唇に手を当てて思案しながら、彼女は呟いた。
「偶然ね。私の父が契約していた魔女もエレンという名の人だった。あの人も…優しい女性だった。」
「もしかすると、同じエレンじゃない?」
と、ニタが言った。
ティアは目を細めながら、クグレックを見つめた。
「そうかもしれない。クグレックは少しだけエレンの面影もあるし、それに、魔力もエレンのものと似てた。」
「ティアの魔力もおばあちゃんに似てた。」
ドラゴンの魔物スポットを破壊する時に注ぎ込んでくれたティアの魔力が祖母のものと似ていたのだ。親の力を受け継いだティアならば、祖母の魔力を受け継いでいてもおかしくはないだろう。
「私達、魔力のつながりで言えば、姉妹みたいね。」
姉妹。ティアが姉で、クグレックが妹で。肉親は祖母しかいないクグレックは姉妹という響きに嬉しさを覚えた。
「私には弟もいるけど、クグレックみたいな可愛い妹なら大歓迎よ。」
「…私もティアみたいな美人で強いお姉さんがいたら、嬉しい。」
クグレックも綻びかけた小さな幸せを堪えることが出来ずに、にこにことほっこりした表情になった。