はじまりの旅
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ディレィッシュははっとした。
見張り中だったのに、意識が飛んでしまっていた。
眠気を覚ますかのように頭をぶんぶん振って周りを見渡し、周りを確認する。
幸運なことに、洞窟内には焚火の薪が爆ぜる音とハッシュの規則的な寝息だけが響いている。
ディレィッシュはほっと安心して、立ち上がり、ぐうんと背を伸ばした。
「はぁ。暇だな。」
ぽつりとディレィッシュは呟いた。すると、その呟きに返事をするかのように
「そうなの?」
と言う女性の声が聞こえた。
ディレィッシュはてっきりテントの女性陣が答えてくれたのかと思い、ちらりとテントの方を見遣ったが誰も外には出てきていなかった。
ディレィッシュは首を傾げた。
不思議に思いながらも、テントの中の起きている誰かに向かって声をかけてみる。
「…だれか、起きたのか?」
しかし、テントの中からは返事は帰って来ない。
一体なんなんだ、と思いながら、ディレィッシュは再び焚火の方へ視線を戻すと、「うわ」と声を出してびっくりした。
焚火を挟んで向こう側に、見たこともない女性がしゃがんでいるのだ。鴉の濡れ羽のような真っ黒のおかっぱの髪型で、白い袴を着た女の子だ。クグレックよりも若く、12、3歳くらいの女の子だった。幽霊に見間違えてしまうほど、生気がないように感じられる。彼女は頬杖を付きながら、ディレィッシュを見つめていた。
ディレィッシュはたじろぎながらも「き、きみはいつからここに…?」と尋ねた。
少女はじっとディレィッシュを見つめた後静かに口を開いた。
「どうしてそんなことを聞くの?」
「ど、どうしてって、突然君が現れたように見えたから、びっくりして。」
少女は相変わらず無表情だったが、彼女が纏っていた空気がピリッと張り詰める。ディレィッシュは失礼なことを言ってしまったのかと思い、敢えて表情を緩ませ、笑顔を見せた。
少女はそれに応じることなく、再び口を開いた。
「山の上のドラゴンは、苦しんでる。早く助けてあげて。」
「狂暴なはずのドラゴンが苦しんでいる?どういうことだ?」
「膨れ上がった魔の力に囚われて、自身を失いかけてる。」
「魔…。」
「追い出してあげて。彼はあなたたちをアルトフールへ導いてくれる。」
「アルトフール…!」
ディレィッシュは驚いた様子で目の前の少女を見つめた。目の前の幽霊みたいな謎の少女は、ディレィッシュ達が知りたい情報を知っているようだ。
「君は、一体…。」
かすれた声でディレィッシュは尋ねたが、少女は返事をしない。
それどころかディレィッシュは強烈な眠気に襲われ、次第に意識を手放した。