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はじまりの旅

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 おばあちゃんが死ぬ前に残してくれた手紙には「ククはしっかり生き延びて、幸せになること」や「無理をして魔女にならなくてもいいこと」や「村の人と仲良くしてやっていくこと」などが書かれていた。あとは、おばあちゃんが請け負っていた薬の作り方、届け先が書かれていた。無理をして魔女になる必要はないが薬を作ってあげて誰かの役に立てば、村の人達は皆優しくしてくれるはず、とおばあちゃんの手紙に書かれていた。
 月曜日はニルゲンさんに喘息の薬を届ける日。
 外に出るのは怖いけど、ニルゲンさんの喘息のためだから、行かなくちゃ。
 恐る恐る家の扉を開けると、どんよりとした曇天が広がる少し寂しげな晩秋の景色が広がっていた。庭の薬草をはじめとする植物たちは徐々に精気を失いつつあり、そこに木枯らしが吹きすさぶ。少し寒いのでコートを着て、民家が集まる中心部へ向かった。
 私の家は中心部から離れている。おばあちゃんが「魔女だから目立つべきではないからね」と言っていたから、敢えて離れたところに住居を構えたらしい。私もそれでよかったと思う。
 収穫の時期をとうの昔に終えた休耕状態でススキがぼうぼうと生えた畑の傍を歩いていると、こつんとコートに何かがぶつかった。足元に転がるどんぐりの実。
 私は悲しい気持ちになり、辺りを見回す。
 枯れかけたススキと背の高い雑草の草陰がかさこそと動く。
「げ、魔女に気付かれた!」
「やべぇ。呪われるぞ!」
 そう言って草叢から現れてきたのは、二人の少年。私よりもずっと小さい子供達。確か7歳くらいになったのかな。私とは9歳くらい離れている。
「魔女は村に入って来るな!」
 そう言って、男の子はちょうど地べたに落ちていた赤ちゃんの手くらいの大きさの石を掴み取り、私めがけて投げつけて来た。
 とっさのことだったのと近すぎたために私は交わすことが出来ず、石は頭に当たった。
「うっ!」
 あまりの痛さに立っていられず、思わずしゃがみ込む。
 同時にニルゲンさんの薬が入った小瓶が落ちて、パリンと音を立てて割れた。
 それでも男の子たちは容赦なく小石を投げつけて来る。
「お前が街に入って来ると、不幸が訪れるって父ちゃんや母ちゃんが言ってた!」
「エレンばあちゃんが死んだのも、お前のせいだって!」
「来るな!疫病神!」
 人に向かって石を投げるなんて、信じられないな、と心の中で思いつつ、コートを頭から被って投げつけられる小石を防御する。エレンばあちゃんとは私のおばあちゃんのことだけど、わたしのせいでおばあちゃんが亡くなったのならば、凄く悲しい。こんな私のせいでおばあちゃんが死んでしまったならば、私はもっと早くに死んでおくべきだった。
 こつんこつんと小石が当たる。
 ニルゲンさんに喘息の薬を届けなきゃだけど、割れちゃったし、こんな疫病神から薬を貰ったって、飲んでくれないかもしれない。もう、嫌だ。
 コートを翻し、私はもと来た道を引き返すことにした。
 その時、大きな風が起こったような気がした。投げつけられた小石は風のせいで逆方向に飛ばされて、男の子たちにぶつかる。小さな石なので、男の子たちに怪我はないけど、あまりにも強い風だったので、男の子たちは吹き飛ばされて転んでいた。
 「いってぇ」と男の子たちの声が聞こえるけど、知らない。
「今の、魔女の力だぞ、絶対。俺達を殺そうとしたんだ。」
「気持ちわりー、とうちゃん達に報告して来ようぜ!」
 足音が離れて行ったことから、男の子たちは中心部へ戻って行ったのだろう。
 私は、もう知らないけど。
 頭から何か液体が垂れて来る。触ってみると、鉄臭い赤い液体が手に着いた。
 打ち所が悪ければ、死んでいたよね。
 最悪。
 打ち所が悪くなかったから、死ねなかった。

作品名:はじまりの旅 作家名:藍澤 昴