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はじまりの旅

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「そう、変な人だったんです。おかっぱで袴を着た女の子だったんですけど、銀色の綺麗な竜と体中が腐ってボロボロになった沢山の生物の群れを引き連れていたんです。本当に不気味で不気味で。どんなに逃げても逃げても疲れることなく追い掛け回されて、でも、私は疲れちゃったから、危うくその腐った集団に食べられてしまうところだったんですよ。なんとか逃げ出せたんですけど、その変な人に呪いをかけられてしまったみたいで、何度も何度も殺される夢を看させられました。終わりのない悪夢って怖いですよね。」
「『滅亡と再生の大陸』ってそんな怖いところなの?突然執拗に襲われてしまうような…。」
「…まぁ、魔物はいますけど、あれは異常でしたね。だから怖かったんですよ。」
 ぶるぶると体を震わせるルル。
 と、ディレィッシュが呟いた。
「…おかっぱで袴を着た女の子、…ちょっと気になるな。」
「俺も、思った。」
 ハッシュが同意した。クグレックも『おかっぱで袴を着た女の子』を考えてみるが、御山で出会ったあの少女のことしか思い出せない。そう言えば、あの少女は銀色の水龍を呼び出してクグレックたちを襲った。が、一方でクグレックに助言を与え続けてくれたのも彼女だった。
「あの人、ずっと『お前が邪魔だお前が邪魔だ黒魔女に与するな黒魔女に与するな我らの仲間に我らの仲間に』って言ってきて、本当に怖かった。」
「『黒魔女』を知ってるってじゃぁ、やっぱり、あの時の…?」
 どうやらあの少女で間違いないらしい。
「得体のしれない存在だが、クグレックを狙っていること自体は間違ってなさそうだ。」
「一体何で…?」
 おかっぱの少女は黒魔女の力を狙う『魔』の内の一人なのか。
 だが、彼女はアルトフールを知っており、そして、クグレックがアルトフールに向かうことも知っている。実際、御山では彼女がクグレック一人をアルトフールに連れていこうとして、クグレックがそれを拒否してしまったために、狂暴化してしまった。
 考えても考えても謎は深まっていくばかりである。
「皆さん、でも、大丈夫です。皆さんもいるし、ムーもいるし、私はもう何も怖くはありません。皆さんのことは私が守りますから!」
 と、ルルが言った。可愛らしい見た目をしているというのに、随分と頼もしい。
「さ、皆さん、ムーから聞きましたが次の目標は海底神殿ですよね。あそこ、なかなか部外者には厳しい土地らしいですけど、フィンさんがいれば大丈夫ですよね。」
 と、ルルが言った。ムー以外は驚いてフィンの方を見た。
「えぇ、既にその手続きも済んでいます。」
 フィンはにこやかに答えた。
「どゆこと?」
 ニタの問いにムーが口を開いた。
「海底神殿があるのはクワド島ってところなんです。まぁ、僕達みたいな部外者が簡単に海底神殿に入れるかどうかも分からないし、そもそもクワド島までの船だって出てないから、フィンに連れていってもらおうと思って。フィンさんはクワド島生まれで、航海術も心得ているそうなので、お願いをしちゃいました。」
「私もそろそろ故郷に帰ろうかなと思っていたところでした。」
「そうか、素晴らしい偶然だったんだな。」
 ディレィッシュが歓喜する。
「…でも、ムーよ、クワド島までの船は出ていないんだろ?船はどこから出るんだ?ハワイ島からか?」
「ティグリミップです。皆さんのお金、沢山あったので、全部使わせてもらいました。船、買っちゃいました。」
「ん?」
「旅人だというのに、船をかえちゃうくらい皆さんお金持ちだったので、かっちゃいましたよ。小さい船ですけどね。だって、皆、僕に全部任せてくれたから、それは期待に応えないと、と思ったんです。」
 そう、ムーが言う通りお金は沢山あったのだ。トリコ王国を追い出された際、餞別で現トリコ王からはお金のみならず、宝石や金や銀を持たされていたのだ。トリコ王国を抜けてコンタイ国に着いてからはほぼ野宿が続いておりお金を使用する機会もほとんどなかった。そのため、彼らの財産にはほとんど手を付けられていなかった。
 そして、ハワイへ行くための手続きもそれに必要な費用の管理も全てムーに任せていた。殆ど全部ムーにまかせっきりだったので、ムーに対して文句を言える者はいない。

 だから、彼の大胆さに一同はぽかんとするしかなかった。
「ほほう、早速一文無しか。」
「えぇ、大丈夫ですよ。あとはアルトフールに行くだけですから!」
 満足げな表情を浮かべるムー。


作品名:はじまりの旅 作家名:藍澤 昴