はじまりの旅
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――なんで皆私のこと嫌いなの?
――ククはいい子なのにね。村の人達はなかなか気づいてくれないんだ。でも時間さえかければきっとみんなククのことを好きになってくれるから。大丈夫だよ、クグレック。
――みんな忌まわしい魔女って言うの。私おばあちゃんよりも全然魔法使えないのに、どうして魔女って言うの?
――そうだねぇ、それはおかしいねぇ。
――魔女って言うだけで虐められるなら、私魔女になりたくない。
――そうかい。それならそれでいいんだよ。無理にやりたくないことをやらなくたっていいんだよ。こうやってシチューを作ったり、お花を育てたり、縫物をしたりするだけでも良いんだよ。
――わたし、そっちの方が良い。クッキーとかパイとかも一人で作れるようになりたいな。そしたらおばあちゃんも食べてね。
――おやおや、ありがとうね。
クグレックは目を覚ました。ハワイ島のホテルのスイートルームのふかふかのベッドの上だ。
身体を起こして、ニタを探してみるがどこにもいない。
ムーは無事にルルの元へ辿り着いたのだろうか。クグレックは不安になり、すぐに身支度を整えようとした。が、サイドボードにニタからの書置きが残っていた。
『ククへ
無事にルルと接触することが出来たよ!
ディッシュもムーも皆元気になって、みんなで海で遊んで来るから、起きたらフィンに電話してみて。お腹空いてたらご飯も用意してくれるって。
ニタより』
クグレックはほっと安堵のため息を吐いた。無事にムーはルルの元へ辿り着くことが出来たのだ。
生死をかけた賭けを行ってしまったが、皆無事で本当に良かった、とクグレックは心の底から思うのだった。
それにしても、随分懐かしい夢を見た。小さいクグレックと祖母が対話していた。
これはクグレックにも覚えがある話だった。
クグレック自身から祖母に魔女になりたくない、と言ったのだ。だから、その時以降祖母は積極的にクグレックに魔法を教えることはしなかった。それ以前に勝手に祖母の魔導書を読み、習得した魔法もあったが、祖母から教わった魔法は殆どないと言っていい。
今考えればもったいなかった。高名な魔女であった祖母から魔法を教わっていたら、今の旅がもっと楽になったのかもしれない。薬の作り方は教わっていたが、薬を煎じる機会は今はない。
そもそも祖母はクグレックが魔法を使うことに関してはあまり良く思っていなかったように思えた。祖母はクグレックを『普通の女の子』にしたがっていたように、今では思えた。
と、その時、クグレックのお腹がぐうとなった。外を見れば明るい。最低でも1日は眠り続けていたのだろう。生きている限りお腹は空く。
クグレックはコンシェルジュであるフィンに電話し、食事を依頼した。
「おはようございます。無事目を覚まして良かったです。」
そう言ってフィンが持って来てくれたのはおかゆと果物だった。
クグレックはのんびりと席についておかゆを口にした。
「2日間も眠ってたので、心配してましたよ。本当に無事で良かったです。」
「2日間も。」
クグレックが思っていた以上に眠っていたようだったので、吃驚した。それはお腹が空く。
「昨日は皆さんクグレックさんのことを心配してて、全く外に出なかったんですよ。このままだと精神も摩耗してしまうと思って、気晴らしに皆さんには外に出てもらいました。一応皆さんにはクグレックさんが目覚めたことはお伝えしたので、時期に戻って来ると思いますよ。」
クグレックは起き掛けの頭でぼんやりとしながらフィンを見つめる。ふわふわとしたセミロングのパーマはおしゃれで可愛い。普通の女の子として過ごしていたら、クグレックもこんなふうにお洒落を楽しんだりしたのだろうか。
フィンはにっこりと微笑むと、寝起きでぼさぼさのクグレックの髪を一束取って手櫛で梳いた。故郷の村にいた時は、耳の下あたりの短さだったクグレックの髪の毛も今や肩に着くぐらい伸びて来ていた。
「ご飯食べたら、髪、整えましょうか。クグレックさんの髪の毛、真っ黒でつやつやしていて綺麗ですよね。」
「え、ぜんぜん。」
目の前の美人から言われてもクグレックはあまり嬉しくなかった。
そんなクグレックの気持ちを察してかフィンは少しだけ寂しそうに微笑んだが、クグレックが食事を摂り終えると、フィンは宣言通り寝ぐせでぼさぼさのクグレックの髪を整えた。
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ムーの友人、基い、恋人であるカーバンクルと呼ばれる種族のルルは緑色のふかふかした毛で覆われ、猫のようにすらりとしたしなやかな体躯を持ち、額には紅い宝石が埋まっていた。大きさは大型犬ほどあり、ニタよりも少し背が低いくらいだった。ニタと異なるのは二足歩行が得意ではなく、四足の方が得意だが、後ろ足で立ったり座ったりすることは出来るので動き方はウサギに似ている。耳はニタと同じようにぴんと立っていて大きい三角形型。また、尻尾は狐のように長くモフモフしていた。瞳は茶色がかった黒色で可愛らしい。ディレィッシュは「少しふっくらとした緑色のフェネックギツネ」と言っていた。
「どうもおせわになりました。」
と後ろ足で立ったまま頭を下げるルル。勿論言葉は喋れる。傍にはぴったりとムーが寄り添う。
「ムー、お前、彼女がいたんだな。隅に置けない奴め。そりゃぁ、あんなに一生懸命になるわな。」」
と、ディレィッシュがニヤニヤしながら言った。
「…もう。」
ムーは少し照れた様子でディレィッシュから視線を逸らす。
「もう、ムーってば、ムーもちゃんとお礼を言うの。ほら。」
ルルは無理矢理ムーの頭を掴んで下げさせる。ムーは突然のことに慌てた様子で「ありがとうございます」と言った。どうやらムーはルルの尻に敷かれているらしい。
「私、ムーから話は聞きました。皆さんは『滅亡と再生の大陸』に向かわれるって。あんな醜態をお見せしてしまいましたが、こうやってムーと再会できたのは、ムーの力だけではないことは知っています。皆さんには感謝しても仕切れないくらいです。ぜひ私の力を皆さんの旅に役立てていただければと思います。」
と、ルルは一息で話した。
「…ルルがいれば心強いですよ、本当に。」
ムーが付け加える。
「確かに、あのバリアや偽物の壁とか、凄かったもんね。あ、ところで、ルルは一体何であんなに怯えていたの?」
ニタが尋ねた。
ルルとムーは互いに目くばせをしてお互いに頷き合うと、ルルの口から返事が返って来た。
「…ムーとは『滅亡と再生の大陸』で離ればなれになってしまって、私、ずっとムーのこと探してたんです。でも、途中で変な人に出会って執拗に追いかけられてしまって、挙句の果てに幻覚まで見せられて…。で、パニックになったまま海を飛びぬけて、辿り着いたのがこのハワイ島だったのですが…。」
「変な人?」