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はじまりの旅

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 薄暗い山の中の道を一行は進む。
 コンタイのジャングルの道やポルカの山道も鬱蒼としていたが雰囲気が違う。コンタイのジャングルは、木々の隙間から日の光が差し込まれて明るかった上に、色とりどりの植物は目にも美しく、鳥や獣たちの鳴き声が聞こえることから生命活動が活発だったし、ポルカの山道は晩秋の山道で少し物悲しくはあったが赤や橙の落葉が敷き詰められる様はまるで絨毯のようで風情があった。ところがこの山中の道はうっすらと暗く『陰気』と言う言葉が似合う。生気がないと言うよりも、生気を吸い取ってしまいそうな禍々しさがある。華やかで楽しいハワイの雰囲気は全くない。
 時折、魔物も現れた。御山程魔物が現れることはなかったが、度々人間ほどの大きさの白い靄が宙に浮いていた。それが魔物であった。一見、幽霊のように見えたが、魔物は一行に気が付くとまるで何かに吊るされているようにぶらんぶらんと動いたかと思うと、突然黒い靄を発してきた。その黒い靄に触れると、息苦しさとキーンという耳鳴りが発生し、視界が真っ白になった。本当に一瞬のことではあるが、とにかく苦しい。
「…斬新なアクティビティだね…。」
 息切れさせながらニタが言う。靄に触れて症状が発生するのはせいぜい1,2秒で大したことではないのだが、身体は吃驚する。
 しかも、この魔物はニタの背では届かない場所に浮いていた。ハッシュが手を伸ばしてようやく届く位の高さにいたものだから、ニタは歯を食いしばり低い唸り声をあげて威嚇することしかできなかった。
 ではクグレックが魔法で応戦しようと杖を構え詠唱を試みたが、魔法は発せられなかった。
 ハワイへと向かう船依頼に魔法を使ってみたが、やはり魔法が使えなくなってしまっている。
「…どうしよう、やっぱり魔法が使えないよ…!」
 と、クグレックは焦るが、傍にいた小さな竜が
「大丈夫です。僕に任せて。」
 と言って、単身白い靄の魔物に立ち向かって行った。そして大きく息を吸い込むと、ムーの口からは拳位の火の玉が吐き出された。大きいとは言えないかわいいサイズの火の玉だが、勢いよく白い魔物へとぶつかると、白い魔物は霞となって掻き消えた。
 その後、白い魔物は数体発生した。ムーとその辺の太い木の枝を武器にしたハッシュが対応して撃退に成功した。クグレックも諦めずに魔法で応戦したところ、一度だけ魔法が使えたが、安定したものではなかった。
 魔物が発生する場所は決まって大木の傍であったため、応戦するごとに学んで行ったニタは木登りをして戦いに参加しようとしたが、途中で魔物の攻撃に遭い、木登り途中で落ちてしまったために、それ以降無理に手を出すことはなかった。

作品名:はじまりの旅 作家名:藍澤 昴