第1章 章末話 『サクラ咲く キミの待つ場所』
あれ?おっかしいな姉さんにはあの猫耳が見えてないのか。
どういうことだ?
「…フフフ。貴様が知らぬのも無理はないさ。アレはいくら見てもこっちの人間には捉えることなどできんのさ」
絶妙なタイミングでヒカリがいつものようにクスクス笑いながら困っている俺に
教えてくれる。
「ってそうなのか?それじゃ、お前ら魔法使いまたは俺みたいに少しでも魔力を持った人間にしかアレは見えんっていうのか?!」
「…フフフ。その通りだ」
なんてでたらめな話だ。まさか、こんなことがあるなんてよ。
世界はもうとっくに物理法則なんか崩壊しつつあるってことか?!
さらに、
「アレには元々、魔力を供給するための循環路がありそこにも魔力が流れておるからな。それでそこから得た魔力は外界から身を守るために常に身体の回りを覆っているのだ。フ…。どうせ気になっているようだからついでに説明しておいてやるが、あの尻尾にも魔力が流れている。まぁ、アレは戦闘時によく接近戦の打撃攻撃としてよく使うことが多いようだ。あと、あの鈴には通信機ような役割を持っている。鈴にある発信システムに魔力を供給し、そこから相手の魔力を感じ取り、発信する相手を決める。それで発信する者が決まれば一気に魔力を解放しメッセージを送ることができる」
「へぇ…何ていうか、多種万能なんだな。アレは」
軽く頭痛と眩暈がしたので俺は目を軽く擦り、頭を押さえてしまった。
「まぁ、全部嘘だけどな。フフフ♪♪」
「って嘘かよ!!思いっきり信じちまったじゃないか」
このガキ、どこまで本気なんだろうな。
「まぁ、全部が嘘じゃないが、それが使い魔に許された能力というわけだな」
「…使い魔?まぁいいや、今一度にそんなこと言われても理解できそうもなさそうだ。また日を改めて訊くことにするぜ」
「…フフフ。そのようだな。貴様の顔を見れば読み取れる。フフフ♪」
何だか全てを見透かされているようなそんな意味深な笑みで俺を小馬鹿するヒカリ。…今、からかってもそんな気力なんかもうないぜ。面倒だから俺はツッコまないぜ。それに俺の頭の中はもう既にいろいろ起こったおかげで頭の中がパンパンで整理が追いつかん。
お前らと違ってそういう知識はもってないんでな。まぁ少なくとも数週間前までは一応普通の人間だったわけだからさ。
「何にせよ。今は何を考えても俺にはわからん。ヒカリが言うように解るときが来るまで待つことにするぜ」
じっと考えに耽っていても無駄なので、俺はポジティブに考えることにした。
その方がずっと健康的だからな。
「フフフ。そういうことだ。貴様にしては上出来だ」
「そうかよ」
「おーい、ハルくんたちってば~この祢音ちゃんを放置しちゃってくれちゃって~いい度胸じゃないさ♪♪…でも、うぅ~お願いだからお姉ちゃんも仲間に入れておくんなさいよ~」
後ろから姉さんが楽しそうなことでわくわくする気持ちと放置したことでやり場のない怒りというか寂寥感というか、まぁそんな感情が混合した表情でこっちに向かって走ってきた。
「ははは~。実に楽しそうだな、ヒナタン。でも、おかげで会長を元に戻すことが出来たことだし、これでやっと例の準備も進めることができるぜ」
いつの間にか俺とヒカリの隣で笑っている凍弥。
ってまだやる気なのか、その謎の企画とやらを。
これ以上の疲労と混乱はごめんだし、俺もそろそろゆっくりと花見を満喫したくなってきた頃だ。それにミナもあのミミルもやっと再会を果たしたばっかりだ。もっといろいろ話に華を咲かせたいだろうぜ。
だから、俺はこの悪戯大好き生徒会連中に生徒会の『役員』として提案することにした。
「姉さん、こうやってミナの友達との再会を果たしたばかりですし、残念だと思いますが、例の企画はまた今度にして今日はどこにでもある花見をみんなでゆっくりと満喫しましょうよ。俺も今更ながらそう思い始めましたし」
「う~ん、そうだね~。ミナちゃんもそのお友達さんと会ったばかりだしお話いっぱいしたいだろうしね。うん♪♪わかった。ハルくんの提案この祢音会長さんが許可しちゃいます♪♪」
「そうですね。残念ですが、そうした方がよさそうですね」
姉さんは少し迷ったようだが何とか俺の提案を了承してくれたようだ。
…はぁ、よかったぜ。これで今日は平穏無事に花見を満喫することができるぜ。
そう安堵を洩らす俺の横をすり抜け、姉さんはミミルに駆け寄っていた。
「はーい♪♪初めまして~♪♪お名前何て言うの??私は、小日向祢音って言います♪♪祢音って呼んでくれちゃってもいいけど、もしよければお姉ちゃんって呼んでほしいな~♪♪」
途端に会長スマイル充填率100%になり、極上スマイルで話しかける姉さん。
「はいですの~。よろしくですの~祢音お姉ちゃん。私はミミルっていうですの~。これからご主人様ともによろしくですの~」
ぺこっと小動物のように機敏にお辞儀をするミミル。
「ミミルちゃんって言うんだ~♪♪よろしくしちゃってね~♪♪」
きゃいきゃいと二人してはしゃぐ姉さんとミミル。
…って早速仲良くなってやがるし。
「それじゃ会長。そろそろ、準備に取り掛かりましょう。時間も大分押していますし」
そんなところに凍弥がやってきて姉さんを急ぐように言い出す。
「あ、そうだったそうだった~♪♪じゃ、急ごっか~♪♪」
そう言うとミミルとはしゃぐのを止め、そっちに向かおうとする姉さん。
…ってちょっと待て。
「って何の準備をするつもりですか~!!」
「え?何言ってるの~ハルくん。例の企画の準備に決まってるじゃない♪♪」
さも当然だと言わんばかりの会長スマイルでそう答える。
…いや、だからそうじゃなくて。
「だってそれはまた今度の機会にすることにして、今日はゆっくりと花見を満喫するって話になったじゃないですか。それに姉さんだってそのようにすると決めたはずでは??」
「うふふふ♪♪そうだよ~確かに私がそう決めちゃったわよ♪♪」
「なら、どうして?!」
「…ハルくんってば、まだまだ甘いよ~♪♪私がそう簡単に諦めるとでも思いますかい?今日という日をどれだけ楽しみに待ち望んでいたこの祢音さんを…うふふふ♪♪」
その不敵な笑みは俺の背筋を凍りつかせ、大きな悪寒が走った。
そして、次の姉さんの決定的な言葉で俺は絶望の淵へと追いやられることになる。
「そう、確かに私は今日はゆっくりとお花見を満喫するように許可を出した。でも、私はみんな…とは言ってないよね~。私は、『ミナちゃん』と『ミミルちゃん』に許可を出したんだよ。お忘れかな、ハルくん」
にやにやとまるで何か企んでいるような眼差しで俺を見つめてくる。
「…そ、そんな馬鹿な」
確かに今思い返すと、姉さんは、
『う~ん、そうだね~。ミナちゃんもそのお友達さんと会ったばかりだしお話いっぱいしたいだろうしね。うん♪♪わかった。ハルくんの提案この祢音会長さんが許可しちゃいます♪♪』
どこにも『みんな』でって言ってない。でも、そんなのアリかよ。
作品名:第1章 章末話 『サクラ咲く キミの待つ場所』 作家名:秋月かのん