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秋月かのん
秋月かのん
novelistID. 50298
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第1章   章末話   『サクラ咲く キミの待つ場所』

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突然だが、皆の衆聞いてくれ。たった今俺に世界をも揺るがすが如くの大事件…いや珍事件が発生した。

いやそれを認識するまでに多大なる時間と労力を総動員してやっとのこと理解することになったのだが…何だかなぁ。

まぁ俺をそうフリーズ状態にさせた原因の根源が今ここにいるのだが…。
俺はゆっくりと視線を落とし、ちょこんと俺の腰に纏わり付く猫耳少女を見つめる。


「ご主人様ぁぁあ~!!会いたかったですの~!!」


そのミミルなる猫耳少女は俺に抱きつくなりいきなり俺のことをご主人様呼ばわりしやがった。


「…………………は?!」


本日何回目になるかわからん今度のは今までと比べモノにならんぞ。
この俺でさえ一瞬本気で再起不能のくらいのインパクトと脳内のメモリファイルを一瞬で一掃してしまいそうなくらいの破壊力を持っており、俺の思考はフリーズした後、強制終了を余儀なくされた。

さて、再起動までにどれくらいかかるかわからんが一応要請命令を出しておいた方がよさそうだ。そして、俺は完全に思考停止した自分を何とか復活させるために回復待ちに全神経を総動員させていた。

その間にもその猫耳少女ミミルは、ご主人様を何度も連呼し、腰に纏わり付いて
離れようとはせずただずっ泣きじゃくりながらそこにいた。その数十秒後に俺の思考は見事にフリーズ状態から通常ステータスモードに回復し、ようやく今の状況を考える時間が出来たのだった。

今の状況を簡単に表すとなになに、どうやら俺がご主人様でこいつは俺に会いたかったらしい。しかもこの様子からすると相当のモノだということが推測できるわけなのだが…。

俺がご主人様??
しかも、見ず知らずなこいつが俺に会いたかった??

何だそりゃ。意味不明、理解不能、解析要請。

一体全体、どういうわけだ。誰か説明してくれ。
何で俺がこいつにご主人様と呼ばれる筋合いがあるのか。
そんでもって今すぐこいつを引き剥がしてくれ。何だかうざったい。


「何だか知らんがキミふざけるのも大概にしてくれ。俺はキミのことなんかまったくもって知らねぇし覚えもない。本当に、絶対に、誓ってキミの思うヤツとは人違いだ」


俺は妙な疑惑を立てられても厄介なのでこの猫耳少女に俺が人違いであることを
断言するが如くに言い聞かせることに尽力を尽くした。…だが。


「何を言っていますのですの。あなたは私のご主人様ですの。でも、ちょっとお声の方が低く、背も私と変わらない大きさでしたですのにこんなに大きくなられましたけれど私のご主人様ですの」


さらにぎゅっと力を籠めて腰に抱き付いてくる猫耳少女。
…っておい。


「だーかーらー、俺はキミのこと全然見たことも聞いたこともねぇし、第一だ。そんな猫耳やら尻尾やら『ですの』口調でしゃべる知人友人の心当たりはねぇぇえッ!!」

「ひ、ひどいですの~!!ご主人様ぁあ~。この私をお忘れになってしまうのですの~!!どうしましたのですの、前に会ったときは優しいご主人様でしたですのに、やっと再会を果たせたと思ったら意地悪ご主人様になってしまったですの~」


「いや、だから…」


「目を覚ますのですの、ご主人様!!ご主人様は何か悪い者たちに操られ騙されているだけですの~!!だから、早く目を覚ましてくださいですの。尽力ながら私もお手伝いさせていただくのですの。だから、ご主人様、目を覚ますですの!!」


話を聞かず、さらに、話をややこしくしやがり俺の身体をガクガクと大きく前後にシェイクさせてくるチビ猫。

…こうなったら仕方ねぇ。このですの猫少女に世間の厳しさをみっちり教えてやろうじゃないか。
すると、俺がそんなことを考えていたところにミナが、


「ミミル…あなた、またレンズなくしたんですね」


珍しくミナがやれやれと肩をすくませて、ため息をついている姿は今のこの状況の中で初めて見たので何だか貴重な瞬間のように見えた。

そして、ミナはチビ猫によってガクガクとシェイクさせられている俺の元に駆け寄り、ミナは姉さんたちに見えないように右手をぐっと握りしめ小さく呪文のようなものを唱えると、右手が小さく輝き、それが消えると右手にはレンズが二つ乗っていた。

…なんだろう。このレンズ。
これと似たモノをどっかで見たような気がするんだが…何だっけ。

そんな俺を尻目に、ミナはチビ猫の正面に回りこみ、さっき生成したレンズをチビ猫に差し出した。


「ミミル。ほら、レンズよ。それをつけてよーく見てみなさい」


「え?あ、はいですの」


そう言うとチビ猫はミナが持っていたレンズとやらを手に取り、自分の両目に1つずつ入れた。…あぁ、思い出した。コンタクトレンズと似てたんだ、通りで。

両目に入れ終わると、2、3回ぱちくりと目を瞬きさせ、再び俺の方を見つめる。


「…えーと、あなたどなたですの。というより何で私あなたに抱きついている んですの。それにさっきまでいたご主人様はどこに行ったんですの。あなた、知ってるんでしょう。教えてくださいですの」


レンズを入れたチビ猫は俺が人違いであることがわかり俺もほっと安堵しているのもつかの間、途端に質問ラッシュ攻めしてきやがった。


「…いや、それはこっちが聞きたい。っていうかそれは俺の台詞だぁッ!!いきなりわけもわからなくご主人様呼ばわりして挙句の果てには目を覚ませだの言ってガクガクシェイクしやがってッ!!覚悟はできているんだろうな~チビ猫」


「…そ、それは謝りますですの。すみませんですの。でも、チビ猫というのは聞き捨てなりませんですの!!それはひどいですの!!私だって気にしていますですのに…それをチビ猫だなんて謝ってくださいですの!!」


「誰が謝るか。そんな、ですのですの言ってるヤツにはチビ猫で十分だ。っていうかそれは飾りだったよな。それじゃただのおチビさんってことになるな」


「うがぁー!!私はおチビさんじゃないですの!!ちゃんとミミルっていう由緒正しい名前があるんですの~!!だから、ミミルと呼んでくださいですの!!」


「それこそ何だかおチビさんを強調させる名前じゃねぇか。なぁ、おチビさん」


「うがぁー!!ひどいですの!!あなた意地悪さんですの~!!」


おチビさんことミミルはプンプンとバタバタと地団駄を踏み、ポコポコと痛くもない猫パンチを俺に繰り出してきた。そんな不毛な争いをしている俺たちに、ゆっくりとミナが口を開いた。


「ミミル」


「え?」


猫パンチをするのを止めて、ミナの方に振り返るミミル。


「ふふふ。久しぶりですね、ミミル」


ミナはミミルに向けて優しく笑みを浮かべてみせると、さっきまでプンプンと怒っていたミミルは一転して満面の笑みに早変わりするのだった。


「…ご、ご、ご主人様ぁぁぁあああ~!!」


ミナを見た瞬間さっきと比べモノにならないくらいの笑顔で表情を緩ませ、ぶわぁっと滝のように涙を流しながら、びぇーんと泣きじゃくりパタパタとミナに駆け寄っていく。


「…おっと、もう大げさなんですからミミル」