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D.o.A. ep.58~

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雑然とした裏通りは、薄汚れた建物が無計画に乱立し、所によっては陽の光さえ届かない。
清潔とは言えず、人間の欲望や悪意がうずまき、表に生きる者が眉をひそめ忌避するこの景観が、しかしグラーティスは嫌いではなかった。
ここには負の側面が剥き出しになる場所ならではの楽しみがある。
金さえあれば大抵の融通は利くところも好ましい。

(…楽しみに来たわけじゃあ、ねえけどな)
彼が目的とする物を入手するためには、ここへ来るしかないのだ。
高値は承知している。足もとを見て吹っかけられた場合、最悪10万以上提示されるだろう。
昨夜、娼館やその他諸々の出費があったので、出来る限り出し惜しみたいところだった。
かつて利用したことのある目当ての場所を、記憶を頼りに探していると。
よそ見していたので、前方からやってきた誰かとぶつかりそうになった。
「…んっ?」
しかし、グラーティスが回避の動作をとるより先に、その人物は彼のわきをごく自然にすり抜けていった。
傍目からはなんということのない動きだったが、なにかが引っかかり、思わず声を出していた。
「…なあ、おい」

いやに急いていた足が止まる。小さく息を呑む音が耳をかすめる。
まあ、なにしろ、全身覆い隠すような白い外套という格好が怪しかった。
振り返った外套の隙間からうかがえる横顔はつるりと無機質に白く、唇は原色のように赤々としている。
そんなものは恐らく仮面だろう。
外套で隠す上に仮面の二段構えとは、余程顔を見られたくないようだ。
返事はないが、用があるなら早く言え、そしてさっさと先へ行かせろ、そんな無言の抗議が伝わってくる。
「あ、―――えっと」
なんらかの違和感ゆえに呼び止めたはずだが、その直感が霧散してしまい、グラーティスはこめかみを掻いて言葉につまる。
「いや…なんでもねえよ。悪かった、邪魔したな」
判然としないものを抱えつつもそういって解放すると、外套の人物は僅かに首をかしげ、早足で遠退いていった。

「なんだったんだあ…?」
むこうもさぞや同じ感想を懐いていることだろう。
確かにあやしげな風体ではあったが、どうしても気にかかるほどだろうか。
裏通りなぞ歩くのに、人目を憚りたい心理は納得できるからだ。
(…ま、いっか)
そういったことは、どうせ大したことではないと割り切ってしまうのが彼のスタンスだった。

「さて、と…確か、このへんにあったはず、だがね」



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作品名:D.o.A. ep.58~ 作家名:har