D.o.A. ep.58~
Ep.58 その発端
――――夢を見ることが、多くなった。
眠りは浅い方だ。
どのような小さな音でも、それが自分以外の立てたものならば、刹那の間に意識を覚醒させることができた。
職業柄、身についた体質だったが、ゆえに夢などに浸った験しはない。
が、近頃、どうも勝手が違う。
疲労回復のためだけに、意識を闇へ送る過程に、不必要な色彩が混じり始めた。
頭の中で繰り広げられる情景は、目覚めてしばらくも、名残惜しむように脳裏で明滅する。
時には、はっきりと意識を保つときでさえ、白昼夢のように視界に入り込む。
凡百の輩をあしらうのに、目を閉じていても支障はない。
たとえ仕事に僅かながらでも障りがあったとしても、彼にとっては大した問題ではなかった。
むしろ、おのれの鋭敏さを疎んじるほどに、その夢にずっと浸かってみたかったのだ。
あの日、あの時のことを、鮮やかに憶えている。
ひしめきあう有象無象の熱。空気のにおい。打ち合う刃の力強さを。
双剣の男との果し合いは、ただただ愉しくてたまらなかった。
――――そして、この身を切り裂く風を。
数分の、とるに足らぬひとときに、こんなにも胸を焦がされる。
なんたる偶然。降ってわいた僥倖だった。
唾棄していた神という存在さえ、信じてみたくもなろうというものだ。
あれが、本物か偽者かなど、どうでもいい。
常になく標的の首を取り損ねたことなど何程のこともない、とさえ思えた。
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作品名:D.o.A. ep.58~ 作家名:har