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祠の話

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昔、友人の除霊に付き合ったことがある。
裏ルートで呪いのビデオを手に入れらしい、入手経路を友人のSに詳しく聞くと、「知り合いの坊主から見終わったら除霊する事を条件に供養品を3万で横流しをして貰った。」と白状した。
供養品を買うなよ、横流しするなよ、とは思ったものの僕もそういった類のモノには興味があったので条件付きで同伴させて貰うことにした、怖いもの見たさと言うやつだ

僕が出した条件とは僕の先輩を一人紹介して付いてきて貰う事、この先輩が文字通りの厄介者で、僕一人がそういった怪しいモノに関わろうとすると嫉妬するのだ、俺も混ぜろ、という事なのだが、連れて行くとロクな事がない、文字通りに厄を連れてくる。

さっそく、Sの住むアパートに行くと中々凝った内装を作っていた。
壁に這わせたしめ縄、部屋の真ん中に盛り塩、お神酒、榊
「おぉ、本格的に用意したな」とSに言うと、「しめ縄以外はおまじない程度だけどな」と大した事はなさそうに言われた。
てっきり安物を用意したのかと思いそういった類に詳しい先輩に聞いてみると「別にこの場合神頼みで除霊しようって訳じゃない、しめ縄で簡単に枠を作って此処は俺たちの空間だから入ってこれないぞ、ってメッセージを出してやるだけだ。」と失笑を買った。
各人が適当にあぐらをかいて座ると、先輩がしめ縄を自分の周りに敷いて遊び始めた。
「おぉ、こうしてると俺が祀られてるみたいだな」
やめてくださいよ、恥ずかしいと先輩をたしなめ、Sにこういう人だから気にしないでくれ、と軽く謝った。

「んじゃ、そろそろ再生すっか」とSが例のビデオを再生し始めた。
ちなみにこの呪われたビデオは近所のK山で撮られ、撮った本人が病死し、遺品整理中に親族が見つけて急遽寺に居た坊主に届けられたモノをこのSがその坊主から買い取った何とも罰当たりなビデオである。
VHSビデオ特有の画面の乱れとノイズに混じって山の風景が映し出される、どこかへ向かっているようだ。その風景を見た先輩に反応があった。
「どうしたんですか?先輩」
「いや…この風景知ってるぞ、ここは隣のK山だろう、確かここには昔口減しの犠牲になった子供を供養するための小さな壊れた祠と地蔵が…」
先輩の言った通り、確かにここはK山だ。地蔵と祠の事は初耳だったがビデオを見ていると撮影者が祠へとたどり着いた。
「祠、既に機能しないくらい壊れているが今ほどじゃない…」
先輩がそう言ったのも束の間、ビデオは撮影者が祠を壊し始める場面が流れ始めた。
時折聞こえる声は不気味な抑揚で静かに話しかけ、時たま怒鳴るような大きな声も聞こえた。
「おい、お前らよく声を聞けよ、聞き取れないけど何かと会話してる」
先輩の言う声を聞き取ろうとしたが、うまく聞き取れなかった、音量を上げようかと相談しようとした時、祠が完全に破壊された。
やけに大きい草を掻き分ける音、カメラが振り返ると画面の奥のようによく見えないがイノシシの様なずんぐりとした物が映しだされ、画面が止まった。
よく見ようと画面見ていると「いいのか、あれ?」と先輩が僕を小突く、ふと横を見るとSがおかしな挙動でしめ縄を引きちぎっていた。
その瞬間、獣や血の匂いが部屋に立ち込め吐き気に襲われる。
入り口にあった榊は枯れ、塩は黒く変色をした。
何かに抱きしめられる感覚がした。
抱きしめられるというよりかは捕まえられる感覚、抱きしめてくる何かからする血と獣の匂いに耐えられず思わず吐く。吐いた後に空気を吸う度に身体が重くなり、呼吸をする事が苦痛になる。

そんな時先輩に顔を強引に持ち上げられ、お神酒を無理矢理飲まされる。
また吐き気をもよおして吐き出すと髪の毛のような物が胃液の中に混ざっていた。
「おい、お前ら2人完全に取り憑かれたぞ。」と先輩に宣告をされる。
先輩が部屋の隅を指差す、そこに影のような、目の錯覚のかと思える不自然なモヤが出来上がっていた。
「おい、そこの角に何が見える」
「黒いモヤが見えます…」
「そうか、見えるか」と嬉しそうに先輩は続けた。
「祠に祀られてたアレが次の祠にここを選んだらしい、祠を壊した時にビデオの中に住み着いたんだろうな、撮影者はそれを狙って撮りながら祠を壊したみたいだが、アレが思ったよりも強くて途中で呪い殺されてしまったって所だろう。
そんで、間抜けがしめ縄の中で再生してくれたお陰で出れたアレはこの部屋に住み着くことを決めちまったみたいだなぁ、まぁ当然だけどビデオはしめ縄の外に出すべきだったな。」
「どうするんですか…こんなの…」
「俺は除霊するって聞いて来たんだがな…」
Sは毛を吐きながら失神をしていた。
「仕方ない、しめ縄でもう一度簡単に結界を作ってやれ、お神酒を縄にかけるのを忘れずにな」
先輩に言われた通りに結界を作り直し、お神酒をかける、Sにも少しかけてやると土気色した顔に少し赤みが刺したので安心する。そして逃げるように外に出た。
「さて、俺はもう面白いものが観れたから満足なんだけど、お前の連れらしいしな、今後も面白いモノ拾ってきそうだから助けてやるよ、お前は来るな。まだお前に憑いてるぜ。」先輩はニヤッと笑った。

巻き添えだ。この人は最初から失敗する事がわかってて抜け目なく身を守ってた訳だ、取り憑かれる僕らを見るために。
「家へと一度帰って俺の連絡を待て、見た所アレは他の生き物の住処には開いてないと入れない。」
先輩にそう言われては付いて行くわけにも行かない。K山へ行く先輩を見送り、一人になる。
アレから逃れたという確証はないが家に帰る他なかった、他に行ける場所もない。

道を歩いていてふと気付くと周りに人が居なくなっていた。
車も自転車もない無音の空間
獣と血の匂いがしてくる。
怯えながら周りを見渡すとそこにアレが居た。
ビデオで見た通りイノシシの様な見た目でこちらを見ていふ。
寄ってくる姿を見てイノシシとは全く違う存在であることようやく気付いた。足と顔は人間の物だ。
イノシシの身体に異様に長い人の手が4つ生え、それを足のように使って地面を擦るように這い寄ってくる。
僕は必死で逃げた。こんな時先輩なら平気でアレに接するのだろうが僕にそんな勇気はない、必死で走り息もたえだえに自分のアパートに戻りドアに鍵をかけ、窓が全て閉まってるかを確認する。
安心したのも束の間、ドアを手のひらで叩く音がする。
あけて、あけてと子供の声がする。
僕はそれを聞いてへたり込んでしまった。
奪いにきたのだ、僕の部屋を
しめ縄もなければお神酒もない、簡単な結界を張ることも出来なければいずれここで餓死するのを待つしかない、絶対に扉を開けられない。
待ち伏せをされるのは先輩にとっても予想外だったのだろうか?籠城する事になってしまった。

しばらくすると音が消え、先輩から電話がかかってきた。
アレは消えたと思うから確認してくれ、という内容だった。
そんな馬鹿な、と思いながらも扉を開けるが確かに何も居ない。
Sの家に様子を見に行くとSもつい先ほど気を取り戻したらしく、平気な顔をしていて僕に事情説明を求められた。
どんな手を使って除霊したのか聞くために電話をすると、
「例の祠の中身、覚えてるか?」と聞かれた。
作品名:祠の話 作家名:伊神片時