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阿修羅に還れ  第一章

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 料亭の座敷を出、表玄関で履物に足を入れる。女将の見送りのも顔を向けることなく前へつんのめるように通りへと出た。白川通りへ出た時、意外に足元はしっかりとしていて、人の流れを縫って歩き出していた。歩きながらチラリと後ろを振り返ると祇園はいつもと変わらぬ花街の風景であった。三味を抱えた粋な新内流しとすれ違った時、殿内はようやく息をふっと吐き出し、通りを右に回り込んだ。
 橋を渡り始めると、殿内の背後で下弦の月が昇りぼんやりと石橋の白い敷石を浮き上がらせていた。
「タタタタッ・・・」
 いきなり殿内を後ろから二人の男が走って追い抜き振りかえった。
「殿内さん」
 名を呼ばれた見覚えのある若い男は近藤といつも一緒にいる奴だ、その隣に土方の姿が見えぎょっとした時には後ろも囲まれていた。後方を振り返ろうと顔だけを向け、次の一瞬に殿内は前方の二人の間をすり抜けて走り出した。
 走り出した、と自分では思ったのだが身体はもとの場所にある。動いてはいなかった。
 動けないはずだ、腰の真後ろから入った刀の刃が腹から突き出ている。腹から出た刃を見ていると、沖田の振り上げた刀は軽やかに殿内を右から袈裟斬りになでた。身体を巡る酒のせいか己の身体から吹き上がる血しぶきを見ても、殿内にはそれが何を意味するものかわからなかった。ただ、背後で二、三回身体を揺らす衝撃が走ると、どさりという音がして殿内を囲んだ者達はその場から走り去った。
 流れる雲の切れ端から下弦の月が現れ、四条大橋に青白くやわらかな光を落とし始めた。

 清川八郎、江戸にて暗殺さる。
 の報は、京の壬生浪士組にも伝わった。
「暗殺ですかぁ、血生臭いですねぇ」
 と一言もらす藤堂平助に、試衛館の面々はなんとなく互いに目を合わせその後一瞬で逸らす。
 つい半月ほど前に四条大橋で発見された斬殺死体の殿内義雄は、藤堂平助をのぞいたほぼ全員がかかわっていた。
 壬生村の屯所に帰った近藤ら試衛館一派を黙って迎えたのは、芹沢鴨だった。
「首尾は?」
「・・・」
 黙って目だけをギラつかせる近藤らに
「刀の手入れを怠るなよ」
 とだけ告げた。
 近藤勇、土方歳三、沖田総司、山南敬助、井上源三郎、そして斎藤一。全員の刀が血ににごり、刃こぼれし、曲がったりもしていた。江戸から出てきた時そのままの、なまくら刀だったからだ。
 その後、殿内の死を知った家里次郎は、自分の身が危ういことを悟り方々を逃げ回りやがて芹沢鴨らにつかまり詰め腹を切らされていた。
 壬生浪士組は、会津藩お預かりのまま、芹沢鴨と近藤勇が局長を務めている。将軍警護以外は市中見回りがお役目だが、攘夷決行の資金集めと称し商家に押し入った不逞浪士を取り押さえようとしてかえって不逞の輩に間違えられたり、京都市中の人々からは決して歓迎されているわけではなかった。

    つづく

 






 


 

 
 
 
 
 


              
                                                  



 
 












作品名:阿修羅に還れ  第一章 作家名:伽羅