ダンジョニアン男爵の迷宮競技
「でも、まだ十代なんですけれど、それに想い人が居るんですよ。その人の病気を治すために勉強して要るんです」
ルシルスは右手の手の平で口元を隠しながらジト目で言った。
「はあ?じゅ、十代でエターナルの教授…しかも想い人が居る……」
マグギャランは力が抜けてリュックサックの上に倒れた。
確かに十代で魔術都市エターナルの教授なんてウソだよな。
「まあ、ミドルンまで行く駅馬車にでも乗ろうや。金は多少は余裕があるから。旅費ぐらいは出してやるよ」
スカイは言った。
「本当ですか?良かった。何故か神官着の袖に入っていたパン一個以外は昨日から何も食べてなくて、お腹が空いて居るんですよ。屋台を見ては悲しい思いをしていました。ミシュカお姉さまの作る美味しい手料理が懐かしいです。あ、あそこにファースト・フード店「コーヒーズ」があります。少し早いですけど、お食事にしませんか」
「おい、お前、オレ達のカネだよ。もう少し遠慮しろよ」
スカイは言った。
「知って居るんですよ。一位になってお金が沢山入ったことを。私だって二位か三位に入賞出来て、お金が手に入ったのに女の子達のパーティに入賞を譲ったのですから多少は何かをしてくれるのは当然ではないですか」
ルシルスがジト目で人差し指を振って言った。
「何処で知ったんだよ。おまえはダンジョン競技の途中で人格が変わったんだろ」
「袖に入っていたダンジョン競技運営委員会が作った競技者用のルールブックを読んだんですよ」
ルシルスがルールブックを取りだした。
「あ、アレか」
スカイ達は歩いていった。
スカイ達は「コーヒーズ」に入った。
そこには早朝の客も、まばらなテーブルの中で、背中に十本の剣を背負ったラッキョウ頭の男が座ってハンバーガーを食べていた。アヒルマークのシールが貼ってあるスーツケースを横に置いている。
「むっ、そこにいるのはラメゲではないか。我が宿縁のライバル」
マグギャランは言った。
おいハッタリは大概にしておけよマグギャラン。スカイは疲れがドッと出た。
あのダンジョンゲームは疲れまくる殺人ゲームだったな。頭も疲れるし身体も疲れる酷いゲームだった。そういや昨日から一睡も、していないんだよな。
ラメゲは面倒くさそうな顔をして振り向いた。
「お前達か。最後となった昨日のレースで一位になったんだってな。俺はダンジョニアン男爵が行った競技の廃止宣言でダンジョンストーカーズを失業したから、実家にこれから帰るんだ。まさか、あの方は……」
ラメゲはルシルスを見ていた。
「どうしたルシルスを知っているのか。それともサシシ・ラーキの方か」
スカイは言った。
「グラタン・バーガーセットとピザコロッケバーガーセットに十五段ビーフマヨネーズバーガーセットを下さい。え?ドリンクは選べるんですか?ヨーグルト・サイダー・シェークに濃厚ポタージュスープが良いかしら」
ルシルスがカウンターで注文をしていた。
まあ、ハンバーガーぐらいなら奢っても今の財布には響かないだろう。でも高いの三つも注文するなよ。しかもセットで…他人の財布だと思いやがって。スカイはカウンターの上の値段表を見ながら思った。
ラメゲがスカイ達を手で招いた。
「ここだけの話だ。耳を貸せ、お前達」
スカイ達三人はラメゲの近くに顔を寄せた。
「なんで、お前達が、あの方と一緒にいるのだ」
ラメゲが目を細めて小声で言った。
は?あの方?
ルシルスが、そんなに大したモノなのか?殺人宗教の邪神官なのに。
「ダンジョン競技中に、あの女が、サシシ・ラーキっていう殺しの秘文字教の神官から人格が変わってルシルスになるところを見たんだ。なあ、マグギャラン、コロン」
スカイは他の二人に聞いた。
マグギャランもコロンも頷いていた。
「人格が変わる?あの噂は本当だったのか?」
ラメゲは腕を組んで顎に手を当てて言った。
「知り合いなのか」
マグギャランは言った。
「ルシルス様を、どうするつもりだ」
ラメゲは答えずに言った。
「迷子で一文無しだから、家まで送っていくという話になって居るんだ。そう言えば家の場所を聞いて、いなかったな」
スカイは首を傾げながら言った。
マグギャランとコロンも、どっかを向いて考えていた。
そうだ、肝心の家の場所を知らなかった。
「ならば、俺は、お前達に付いて行く」
ラメゲは顎を押さえて考えながら言った。
「はあ?なんでだよ」
スカイは言った。
まさか賞金を狙っているのか。
「ルシルス様はボルコ家の恩人の娘なのだ。だから、ちゃんと家に送り届けなければならない」
ラメゲは額を押さえて言った。
スカイに嫌な予感が走った。
ラメゲは暗黒王国タビヲンの貴族だ、その恩人ならば……。
その時、窓際の席から立ち上がった男女がいた。そしてこっちに近づいてきた。
「あーあー、君達。見ていたよ、見ていた、私は見ていた。君達は昨日のレースで優勝した第七パーティ「ザ・ワイドハート」のメンバーだね」
眼鏡を掛けた白髪で長髪の中年の男が言った。温泉マークのアロハシャツを着て白いバミューダ・パンツを履いている。仁王立ちして長髪を、かき上げている。
「父さん、どう見ても本人達だよ。早く本題に入ろうよ」
眼鏡を掛けた茶色い髪を二つに分けたソバカスの少女が言った。十七、八歳ぐらいだ。パイナップル模様のアロハ・シャツを着て白いプリーツの入ったスカートを履いている。
「君達は、私の鋭い勘によれば冒険屋だね」
中年の男性が言った。
「まあ、そうだよ」
スカイは言った。
「それでは、ダンジョン・ゲームで優勝した腕を見込んで、仕事を引き受けてくれないかな。私と娘は今、商売敵の刺客に追われているのだ…」
スカイは、マグギャランとコロンと顔を見合わせた。
また冒険の始まりのようだった。
ダンジョニアン男爵の話はこれで終わりだ。
まあ、一日の間に走り回って戦って罠に、はまり掛けたりと酷い一日だった。
メルプルの父親のブルーリーフ男爵と母親も妹は生きていたし。結果的には良かった良かっただったな。
メルプルの事を余り話して居ないって?
まあ、女の子の事を、ぺらぺら話すのも行儀が悪いってものだ。
で、コロン姉ちゃんは結局冒険屋になってしまうんだ。やっぱり最初の冒険で大金を、せしめすぎたからな。あれで癖になったに違いないよな。いつも、あんなに儲かる、はずはないんだよ。コロン姉ちゃんは俺とマグギャランと違って借金が無かったから、三分の一を丸々儲けたんだ。そして銀行に貯金したんだな。でも、あとで、くだらない物を買うんだよ。
それで、しばらくの間オレ達はマグギャランも含めて三人で組むことになる。
コロン姉ちゃんは俺が内陸海を渡ってコモンから逃げ出して南方大陸に行くまで一緒に冒険屋を、する事になるんだ。
で、ほとぼりが醒めて南方大陸から帰ってきたらコモンは大変な事になって居るんだな。
まあ、その話は、また今度な。今日は、この辺で終わりにしようや。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道