「夕美」 第七話
「雅子さん、夫とは昔からの知り合いなんですか?」
「ええ、結婚される前から存じ上げていました」
「それだけですか?」
「それだけ?どういうことでしょう」
雅子は少しドキッとした。
「ご主人の俊之さんは若いころから素敵な方だとは思っていましたが、それだけでしたよ」
「夫が夕美さんを紹介してくれた時に知り合いの紹介だと話していましたが、それは雅子さんのことだったのですね?」
「いえ、違います。実家の父親と俊之さんは懇意にしていましたから、だれかいい子が居ないかと聞かされて、それなら夕美が適任じゃないかと紹介したんです」
「夫は何故お手伝いのことをあなたのお父様に相談したのでしょう?ふつうは職業安定所とか、派遣の業者に頼むと思うのですが私の思っていることは変ですか?」
「変だとは思いませんが、なぜそのように言われるのか解りませんが・・・」
「あなたからお父様か夫に夕美さんのことを頼んだのではないかと思えたからです」
「どうしてそのように思われるのですか?」
「どうして?そうね、女の勘かしら・・・」
「由美子さんのおっしゃりたいことが良くわかりませんが、もし私が夕美のことを義父に頼んだとして、それはいけなかった事だと思われるのでしょうか?」
「そうは言いません。あの年の娘さんを仮に養女とはいえよく出されたと思ったからです」
「それは裕福な大森家とは私のところは違いますから、あの子の為を考えてこちらに来させました」
「そういう風にお考えだったのですね。雅子さんはただ昔の夫を知っていると言うだけで、あれだけ泣かれたことにちょっと驚かされましたので
取り留めもないことを聞いてしまいました。遅くまでお引止めして申し訳ありませんでした。タクシーを呼びますのでお使いください」
「はい・・・ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」
雅子は冷や汗もので大森家を後にした。