33粒のやまぶどう (短編物語集)
春樹はサラリーマン。多忙な日々の中にあったが、やっと休暇が取れ、気分転換にと中国を旅した。そして訪ねた古都、洛陽の夜店でたまたま1冊の古書を手にした。表紙には外伝とだけ書かれてある。
実のところ、最近付き合いだした貴美子(きみこ)、世間では滅多に見掛けない古書大好き女だ。その彼女にもっと気に入られようと、そんな魂胆で購入し、土産として日本へ持ち帰った。
「えっ、信じられない。この外伝の伝記は──魏志倭人伝よ!」
カフェで貴美子に逢い、手渡した古本。これを手にしていきなり叫ばれても、春樹はコーヒーカップを持ったまま呆然となるだけだった。
「外伝には伝記の裏話や補足があるのよ。私に1週間の時間をくれない、読み解くわ」
貴美子は食べかけのケーキをそのままにし、席を立ち、さっさと帰ってしまった。「これが古書女の振る舞いか」と春樹はただただポカーンと見送るしかなかった。
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊