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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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── お兄ちゃん、母が亡くなりました。 ──

 良樹に、ずっと音沙汰がなかった綾音から一通の報せが届いた。綾音の父はとっくに他界している。それ故、母の死亡により、一人娘の綾音はひとりぼっちになった。その寂しさを慮(おもんばか)ると、もう居ても立ってもいられなくなった。

 お兄ちゃんと呼ばれる良樹、実の兄ではない。単に三つ違いの幼馴染みだ。
 母子家庭だった良樹に兄弟はいない。そんなこともあり、きっと母同士の計らいだったのだろう、兄と妹の疑似関係が作られた。

 それでも瞳がくりくりとした綾音、本当の妹のように可愛かった。
 恐がりだった綾音は、ワン公に出くわすと良樹の後ろにいつもそっと隠れた。また綾音は泣き虫だった。いたずらっ子に虐められた時は兄として立ち向かった。やっつけた後は、怯(おび)える綾音をぎゅっと抱き締め、綾音を和(なご)ますために、「お兄ちゃんがいるから、大丈夫」とほっぺをコチョコチョとくすぐってやる。すると綾音はほっとし、ニコニコと笑った。

 こんな幼い二人はやがて少年少女へと育った。
 しかし二人に別れがやってくる。高校卒業と同時に、良樹は母を助けるため都会で働くこととした。

「私、別にさびしくないから」
 見送りに来た綾音は精一杯の強がりを言った。
 されどもプラットホームの片隅へと走り、その頃多分芽生え始めた恋心のせいだろう、肩を振るわせ泣いていた。そんな少女の残像が瞼の裏に浮かぶ。