33粒のやまぶどう (短編物語集)
思い返せば、初めて出逢ったのは小学六年生の頃、妹、美希(みき)の手を引いて花見に来た。
「お兄ちゃん、たこ焼きが食べたいよ」と美希がねだった。母からの小遣い10円を握りしめ、夜店へと。変な臭いのカーバイトランプで照らされた屋台、すべての夜景が揺れていた。
生まれて初めてたこ焼きを見た。もちろん夜店で買うのも初めてだ。胸をドキドキさせ、1フネ買った。それを落とさないように桜の木の下へと持って行き、妹と3個ずつ分け合った。
「お兄ちゃん、熱くて食べられないよ」
美希が突然泣き出した。フーフーと目がまうほど息を吹き掛け、冷ましてやった。これで美希は泣き止み、二人で頬張った。
「お兄ちゃん、美味しいね」
ニコニコと、幼ない妹に笑顔が戻った。
あれから幾年月が流れただろうか。今は母も、あの愛々しかった妹もいない。
洋介の目の前には、桜花爛漫(おうからんまん)の世界が広がってる。されど、それとは裏腹に洋介の目に涙が滲み、目頭をそっと拭く。
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊