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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 夜の闇を打ち割るように、ライトアップされた一本の枝垂(しだ)れ桜がある。老木だが、浮かび上がった姿は艶(あで)やかで、時折吹き来る夜風にひらひらと花びらを散らす。

 花木洋介(はなきようすけ)は空(くう)に舞う一片(ひとひら)を掴み取り、ベンチに腰を下ろす。それから缶ビールをシュパッと開け、ゴクゴクと。これでやっと喉の渇きを潤すことができた。
 そしてブツブツと。
「知恵理(ちえり)さん、今年も会いに来ましたよ。いつも妖艶(ようえん)ですね」
 昭和世代の洋介、長年この桜を見続けてきた。そのためか知恵理さんと勝手に愛称で呼ばせてもらってる。