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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 洋一は雛壇の組み立てから取り掛かった。そして赤い毛氈(もうせん)を被せ、上段から慎重に、お内裏さまとお雛さまにまず座ってもらう。背後に金屏風、両脇にぼんぼりを置いた。そこから下がり、三人官女に五人囃子、あとは桃の花や白酒など、それは母がしていたように出来るだけ華やかに飾った。

 こうして一段落が付き、遠くから眺めてみると、なかなか立派な雛飾りだ。
 今度は近付き、人形の顔を見てみる。みんな笑っているようだ。今にも笛や太鼓の音に合わせ踊り出しそう。
 次に洋一は袋から摘まみ出した物を雛壇の前に見栄(みば)え良く並べた。それらはおはじきにお手玉、あや取りの赤い毛糸もある。
 それらをしばらく見入っていた洋一、その目に涙が……。

 父も母も、そして洋一も、涙は枯れていたはずなのに。ハンカチでぬぐってみても溢れ出る涙、年甲斐もなく号泣した。

 この原因、それは50年前に遡らなければならない。

 洋一には郁子(いくこ)という妹がいた。母に飾ってもらったお雛さん、郁子はそれが大好きで、この雛壇の前で一日中で遊んでいた。
 だが、あのひな祭りの日、遊びに夢中になり過ぎたのか、夕飯になってもそこから離れない。そんな妹を母は叱った。郁子はお雛さんの前でしくしくと泣いていた。洋一はそんな妹が不憫で、あや取りをして遊んでやった。