33粒のやまぶどう (短編物語集)
洋一は久し振りに実家に帰った。
父は8年前、そして母は3年前に他界し、今は誰もいない。家には火の気はなく、春だというのに冷え込む。還暦をとっくに過ぎた洋一、その冷たさが身に沁みる。
「さっ、飾り始めるか」
洋一は気合いを入れ直した。今からお雛さんを飾ろうというのだ。
まず納屋から古い木箱を運び込んだ。そしてそろりと蓋を開けてみる。少しかび臭い。中を覗けば、新聞紙に包まれた大小それぞれの物が丁寧に並べられてある。几帳面だった母がきっとそうしたのだろう。
洋一はその一つを開いてみる。すると気品ある人形が現れた。
母は言っていた。このお雛さんたちは生きてらっしゃるのよ、だから1年に一度は箱から出してあげないとね、と。
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊